39/39
終章
男の、タイプライターを押す手が止まる。そう、小説が打ち終わったのだ。今は夜、大分更けた夜になっていて、打ち終わった小説を前に、男は疲れた目をいやすよう目がしらに手を当てていった。
流石にもう追い立ててはこないタイプライター、威圧感を与えてこないタイプライター。それを前に、男は一枚一枚紙をめくり、今一度小説を読み返してゆく。そうしてすべて読み終えると、男の顔に浮かんでいたのは何故か困ったような表情であった。
そう、男は気になっていた。これではルフィノがあまりに可哀想じゃないか、と。あれだけティアを愛していたのに、全く報われないなんて。これは、恋愛小説を書きなれないが故の手落ちなのだろうか? 男は思わず考え込む。そして、これでは全く納得がいかないと、再び男はタイプライターに手を伸ばそうとする。そう、ストーリーを変え、改めて打ち直そうとしたのだ。だが……。
その手は、止まって下ろされた。しばし流れる沈黙の時。そしてやがて、男の口元に思わずといったよう笑みが零れる。
そう、物語はほろ苦くも、やっぱりハッピーエンドがいいんだ、と。
了




