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第六章 揺れる心(5)

 渋い思いをしたヴィート。悔しい思いをしたヴィート。だが、それだけでは終わらなかった。皇帝陛下との会談の様子、そしてその後のノアン伯との会談の様子、それはアッという間に皇都ロスピタレに伝わっていったのだった。城に詰める者達の間だけでない、残った数少ない住民達の間にも伝わっていった。

 それは、ヴィートの傍若無人ぶり、垢抜けない田舎者ぶりであって、皆軽蔑を込めて、彼の事を噂していった。そして、


 コルノの王様くそ王様

 言葉も下品で態度も下品

 皇帝陛下に切れまくり

 ありえぬ暴言ぶちまいた


 コルノの王様くそ王様

 言葉も下品で態度も下品

 一日三回飯食って

 一緒に会談済ませたよ

 

 そんなはやり歌が流れるほどであった。

 それは、コルノ兵達にもいずれ伝わり、我が王を侮辱するその歌に、皆は腹立たしい思いを胸に募らせていった。否、募らせるだけでない、実際政治にも影響を与えていって……。そう、ノアン伯との会談後、皇帝をどうするかについて、勿論ヴィートは臣下達と話し合っていった。だが、中々意見は一致せず、反対派と賛成派に分かれていってしまったのだ。紛糾して長引くばかりの会議。意見が一致しない理由は、やはりアレジャン側の態度、であった。そう、反対派も賛成派も、大方のコルノの人間は、会談の時の臣下達の態度、流れるはやり歌、そういった噂を聞いて、心証を悪くしていたのであった。勿論、皇帝など不要、という反対派の単純な意見もあったが、噂の影響が話をこじらせていること、それは否定できなかった。確かに、ノアン伯の案を飲むことで利点もある。だが、コルノにもプライドがあった。それを刺激され、反対派は態度を硬化させていったのであった。そう、反対派曰く、そんな奴らめちゃくちゃにしてしまえ、皇帝がなんだ、再起不能にしてしまえ! ということなのであった。

 ヴィートも、一度はノアン伯の申し出に乗り気になっていたが、彼の笑顔の裏を知って、それらの噂を聞いて、態度を変えざるを得ない気持ちになっていた。アレジャンの服は二度と着ない、馬車にも乗らないと、宣言していたヴィートだったが、それだけでない、アレジャン全てが、それに関連するもの全てが、嫌悪の対象となっていった。そして……。


「ああ、くそっ!」


 今日も進展しなかった会議に、苛立たしさも露わに、ヴィートは自分の天幕へと戻ってくる。するとそこにはティアがいて、どこか複雑な表情をして彼の姿を見つめていた。


「何だ」


 だが、そう問うても、ティアは唯首を横に振ってゆくばかり。知りたくても知れない、ティアの心の中、気にはなるが、多分答えてくれないだろうその心の中、それは、


 気の毒な人……。 


 そう、ティアは心を痛めていた。心無い、あの噂話を耳にして。馬鹿げた、あのはやり歌を耳にして。そして、ティアは歯がゆい思いをする。お願い、ヴィートをそんな目で見ないで、そんな風に言わないで、と。半年以上という短くない期間、一緒にいて分かったことだった。敵ではあるが、根はそんなに悪い人ではないということを。蛮族ではあるが、彼も自分たちと同じ心を持った人間であるということを。以前は、そんな簡単なことすら分からなかったのに。だが、


 ああ、馬鹿!


 心の奥底に残る感情が邪魔をする。

 そう、何を思っているのだと、ティアは慌ててその思いを振り払う。確かに、悪い人ではない。分かっていても、やはり敵は敵だった。その敵に、いつの間にかそんな印象を抱いていることに自分自身驚きながら、

 

 まただ。またこんなことを考えてる……。相手は敵、ロスピタレ住民の言う通りよ! 彼は言葉も態度も下品。典型的な蛮族! 流されちゃいけないわ!

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