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第五章 戦いに次ぐ戦い(1)

 そうして、夜も更ける頃になって、ようやく陣屋の設置が終わった。後は寝るだけだった。そう、明日に備えて、今日の疲れを癒さなければならない。だが、皆は落ち着かなかった。明日を思って、落ち着かなかった。その落ち着かない気持ちを抱えたまま、皆はそれぞれの天幕でそれぞれの夜を明かしていった。それは静やかな夜。眠れぬ者には清かな夜。そして残念な事に、こういう日ほど、時が過ぎ去るのは早い。休息の時間はあっという間に過ぎ、白々と夜が明けてゆく。すると、始まるのはもう戦の準備だった。そう、ヴィートのいった通り、その日から戦は攻囲戦へと移っていったのだ。そして、コルノ軍がまずやった事。それは、すぐに市壁を取り囲み、補給路を断つ事だった。これは、ソリーリャで話し合った通り、長期戦になった場合の先手である。だが、補給に限りのあるコルノ軍は、できれば短期決戦を望んでいた。それには、とにかく市壁内に入らねばならなかった。全力をかけて、コルノ兵達は作った。破城鎚を、梯子を、攻城櫓を。勿論、速さを求めても手を抜いてはいけない、破城鎚には、市壁から射てくる矢を遮る天井をちゃんとつけたし、破城櫓も一度に多くの人間が攻撃できるよう手の込んだ作りにしていった。そして、出来上がったその武器たちを早速兵達は使ってゆく。そう、振り子のように振って、破城鎚を門に何度も叩き付けて。アレジャン軍が対処に困る程、次々と梯子を市壁にかけ。攻城櫓を市壁に近づけ、一気に兵士を降り立たせて。コルノ全軍、あの手この手を尽くして、中への侵入を試みていったのだった。

 そして、少しずつ押し気味になってゆくコルノ軍。やがて、決定的な場面が来る。そう、破壊鎚が、市門を破ったのだ。市門をこじ開け、中へと突入する兵士達。一気に市街へと兵が雪崩れ込んでゆく。だが、この都市を落としたい理由の一つは、アレジャンでのコルノ軍の補給地を確保したいからという事でもあった。だから、あまり大きくダメージを与えては価値が下がる。その辺り、口酸っぱくヴィートから指示されていた兵士達、中へ入っても無駄な戦いは避け、皆城目掛けて進んでいった。途中、アレジャン兵の妨害に会い、市街戦へと発展する場面もあったが、それもほんの僅かであった。当たったとしても、後のないアレジャン軍とは士気が全く違っていた。あっという間に城門に到着するコルノ兵達。だが、今度はすぐに攻囲戦には入らなかった。そう、ポリニーが開城交渉へと出てくるのを待ったのである。そしてやがてやってくる、


「使者だ! ポリニーの使者だ」


 ポリニーからの使者。そう、とうとう開城交渉の申し出をしてきたのだった。

それを受けて、ようやく始まる開城交渉。

 コルノ側の交渉人はエンツォ。ポリニー側の交渉人はユナヴィル領主、デジレだった。

 場所はポリニー内にあるヴェルリー城の一室。

 二人はそれぞれ数人の部下を引き連れ、広い大広間に、向い合せに座っていた。そして、「では、開城交渉を始めましょうか……」と、まずエンツォが口を開く。コクリと頷くデジレ。すると、


「最初に、こちらの条件ですが、よろしいですか?」


 だが、まだデジレは、現実というものが受け入れられないようだった。どこかプライドのようなものが残っているらしく、卑屈な笑みを浮かべ、「さっさと言え」と、横柄な態度でそう言ってくる。そう、まるで自分の方が上とでも言いたげに。

 それに相変わらず冷静なエンツォ。そんな言葉にも惑わされず、落ち着いた態度で、


「大きな条件は、ポリニーはコルノに下る事、補給要請に応える事ですね。後はこちらにかいてあります」


 そう言って、エンツォは文字の並んだ羊皮紙をデジレに渡していった。それを受け取り、読んでゆくデジレ。するとデジレは、渋い顔をして一言、「なんてことに……」と呟くと、ぴたりと口を噤んでいってしまった。何かを考えるかのような顔をして、口を噤むデジレ。嫌な沈黙が辺りに流れる。それはじりじりするような長い沈黙で、とうとう痺れを切らしてか、エンツォはデジレに向かって鋭くこう言う。


「明らかにポリニーは劣勢です。我々の条件を飲むことをお勧めしますが」


 だが、それでもデジレの顔は渋いままだった。ぐずぐずといつまでも条件に応じようとせず、ひたすら黙ったままでいる。すると、流石のエンツォもそのデジレには苛立ち、これが最後と、冷たい声色でこういう。そう、


「我々はいつでも、この城をわがものに出来るのですよ」


 と。それは、暗に内通者がいるという事をほのめかしているものだった。その者に命令して、いつでもこっそり城門を開けておくことができる、と。実際、アレジャン側は知らなかったが、コルノは間者をポリニーに忍び込ませていたのだ。相手が開城交渉を拒むようなら、門を開けさせるつもりでいたのだ。

 コルノの勝利はほぼ決定的、それを流石に悟ったのだろう、その言葉に、デジレは悔しげな表情をしてゆく。そして、心の中で思う、


 これ以上の傷を負わずに、戦争を終結させるには、この条件を受ける以外ないか……。


 ポリニーは風前の灯だった。

 ならばとポリニーは、開城交渉を受け入れてゆくのであった。そう、あの条件を飲んだのである。そして、


「では、こちらの条件だが……」


 力ないデジレの声が部屋の中に響く。

 それにニコリと笑うエンツォ。

 こうしてこの戦いは、コルノの勝利で、終結を迎えることとなった。


   ★ ★ ★


 やがてやってきた夜。あちらこちらで篝火がたかれ、楽隊達の音が楽しげに、騒がしく鳴り響く。例えばレベックの、例えばリコーダーの、例えばリュートの、どこか研ぎ澄まされた、涼やかな音色達があちらこちらで鳴り響く。そしてそんな中、それに合わせて、タンバリンを手にした踊り子達も舞い踊る。


「歌え! 踊れ! 我が軍、コルノ!」


「ピューィ! いいぞ、もっとやれ!」


 陽気に歌うコルノ軍兵士達。元気に掛け声をかけてゆく、コルノ軍兵士達。

 そう、その夜、コルノの兵達はお祭り騒ぎだった。行軍についてきた楽隊や踊り子達を前にして、ポリニーで勝利の美酒に酔いしれていたのだった。

 ティアも、その場にいた。身分の高い者は皆ヴェルリー城にいたが、兵士達の労をねぎらって街を回るヴィートに、ティアもついていったのだった。そしてそこで、ティアは見ることになる。確かに城は奪ったが、決して彼らは一般市民たちに略奪を行っていかなかったことを。また、ヴィートが兵達にそう命令しているのを。いや、ここだけではない、ティアはこの先この光景を何度も見ることになった。

 思わず、心に重石が乗っかるような気持ちになるティア。思う心は、


 やはり……。


 だが、今更彼の印象を変えられなくて、ティアは戸惑うばかりだった。そしてティアはヴィートに問うた。


「何故、略奪しないの? 蛮族でしょ。国境付近の小競り合いの時は略奪してたじゃない。それとも、開城の条件がこれだったの?」


 すると、蛮族という言葉にだろうか、明らかに気分を害したような顔をしてヴィートは、


「開城交渉の条件じゃなくても、略奪はしないさ。俺は、国を壊す為に戦ってる訳じゃない。自分のモノにし、統轄する為、コルノの一国として機能してもらう為だ。略奪すれば民の心は離れる。その地も乱れる。つまり、統轄は難しくなる。略奪は、兵のその場の気持ちを満足させるにはいいが、それは一時的なものだ。国境付近の小競り合いの時、略奪していたのは、その地域の経済力を落とす為。それも策略だった。長い目で見ての攻略になったら、そんな危険犯してまで略奪なんて、いいことなど一つもないさ」


 確かに、そうだった。

 だが、その当然の事すらできないのが蛮族だと思っていた。私利私欲、欲望の赴くままに動く民族、と。

 これによって、ティアの心は複雑に絡み合ってしまった。そう、もつれにもつれて、困惑の思いのまま、ティアはヴィートから目を逸らす。そして、その思いを振り切るよう、手の中にあった杯を、ティアは一気にあおっていった。

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