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第四章 始まりの戦い(3)

 そして、とうとう王都ソリーリャを出立する時がやって来た。間近に迫ったアレジャン目指して、そのアレジャンの国境の街、ポリニーを目指して、コルノ軍の一行は足を進めてゆく。確かに長旅の疲れはあった。だが、兵達はそれを見せず、目的地目指して歩きに歩いていった。戦への意気を前面に、唯ひたすら足をアレジャンへと向け、兵達は歩きに歩いていった。そうして、それから約二週間後、遠くにもうすぐポリニーの街が見えるだろうという所まできた頃、


「アレジャン軍です! こちらに向かってきています!」


 偵察に出していた軽騎兵が戻ってきて、ヴィートにそう叫んでくる。そう、どうやら敵は、野戦を選択してきたらしい。


「あと何キロぐらいだ」


「約十五キロ」


「数は?」


「およそ十万」


 それを聞いて、ヴィートは鼻で笑う。


「相手にならないな」


 そして、確認するよう傍らの参謀のエンツォを見遣ると、


「野戦に打って出ようってことだな」


 それにエンツォはコクリと頷き、


「はい」


 少し考えたように小首をかしげるヴィート。そして、後ろを振り返る。


「皆、隊列を組め! 密集陣形だ! 前十列長槍隊、後ろ十列長弓兵、その両脇を騎兵が固めろ!」


 それを聞いて、慌てて伝令達がその場から駆け出してゆく。勿論、コルノ王、ヴィートの言葉を皆に伝える為だ。

 慌ただしくなる周囲。率いる二十万の兵は、ヴィートの一言で、すぐさまこの広大な平原に、指示した陣形を作ってゆく。そう、本当に見る見る内に。それを満足げに見つめるヴィート。そして、それを見届けると、その合間を縫って、ヴィートは馬の踵を返す。そうして向かったのは……。


   ★ ★ ★

 

 それは、刻々と変わりゆく時だった。そう、まるで砂時計の砂が落ちてゆくかのように。そんな時、列の後方にいたティアにもその変化が伝わってきていた。それは、何かが始まろうとでもするかのような変化、突然に訪れた思わぬ出来事に、つい辺りを窺ってしまいたくなるような変化。そう、周りは次第に様相を変えてゆき、それを推し進めるかのよう、遠くから伝令の声が響いてくる。それでティアは分かった、今まさに戦が始まろうとしている事を。そんな様子をティアは緊張の面持ちで見つめながら、


 自分も行きたい! 


 剣の技術はあっても、実戦経験のないティア、本物の空気を味わうのは初めてだった。 その雰囲気を肌で感じながら、今は唯行きたい思いにティアは満たされていた。だが、それは約束で無理なことだった。重々承知してはいても、悔しい思いに、少し不貞腐れた気持ちになってしまう。するとそんな時、


「ティア! ティア!」


 不意に前方から自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 誰かと思ってそちらに目を遣れば、それはヴィートだった。

 思わずティアは不機嫌顔で、


「こっちよ!」


 そうヴィートに呼びかける。すると、ヴィートはそれでティアを見つけ、馬を彼女へと近づけてくる。


「何なの?」


 疑問に思うティア。するとヴィートは、


「もう少し行ったら、恐らく戦が始まるだろう。お前は後方で、輜重部隊の軽騎兵と共に、終わるまで待っていてくれ」


 剣は握れないことは分かっていた。そう、それが約束なのだから、仕方がなかった。口惜しかったが、後方で待つことを納得して、ティアは渋々頷いてゆく。すると、それにヴィートはニコリと微笑み、


「まぁ、勝ってきてやっから。待ってろよ」


 自信満々にそう言ってくる。それが何故か癇に障り、更に不機嫌になってゆくティア。思いっきり顔を顰めて、


「あなたなんて、弓に射られて死んじゃえばいいのよ!」


 憎まれ口を叩く。だが、当のヴィートは懲りない。くしゃり、彼女の頭を撫でると、


「まぁ、見てな」


 そう言って馬の腹を蹴り、その場から去って行った。

 どうやら彼も出陣するようだった。この時代、先陣を切って兵と共に戦う、そういった王が皆から歓迎され、尊敬された。そう、ティアの父のように前線に出ることはなく、後方から戦況を見つめて支持を出すタイプの王は稀だったのである。だが、彼の技量、そして性格からして、先陣を切って兵を鼓舞し、剣を手に戦ってゆくのは、例えそういう時代でなくても、そうしていただろうことを窺わせた。そういうタイプの王だった。

 だが、それにしても彼のあの態度。あくまで余裕な彼の態度。癪に障る以外の何ものでもなかった。そんな彼の後ろ姿を見つめながら、ティアは、


 なんなのよ~!


 思いっきり腹立たしい気持ちになって、きつく拳を握りしめていった。

短くってすみません!

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