第三章 コルノにて(3)
一方、城の大広間では、王であるヴィートをはじめとして、国の重臣達が集まっていた。壮年の者あり、若い者あり、小太りの者あり、痩身の者あり、着ている服が皆それなりの身分を示すもの、という以外、見たくれは様々な者が集まっていた。そんな者達、約二十人が集まってやることは、国の今後について話し合うことであった。円形の卓につき、そのことについて、神妙な面持ちで皆語り合ってゆく。そう、会議であった。重大ともいえる会議であった。
そんな彼らを前に、どうやら進行役らしい宰相ラウロが話を先に進めてゆく。
「えー、では、今後の我が国の方針について話し合いたいと思いますが……」
その言葉に、小難しげな顔をして、重臣の者達は重々しく首を頷かせてゆく。それはヴィートも一緒で、目くばせしてきたラウロに頷いてゆくと、それに彼は納得したようで、
「では、まずは陛下からのお言葉です。陛下、どうぞ」
ラウロの催促に、上座に座っていたヴィートは一つ息をついて席から立ち上がる。緊張の面持ちで彼の言葉を待つ重臣達。それをヴィートは見渡してゆくと、ゆっくり口を開き、
「ルータ攻略は上手くいった。この勢いに乗って、次へ行くべきだと、俺は思うが……」
「その通りだと思います!」
「異議なし!」
ヴィートの言葉に、待ってましたとばかりに、納得の声が次々に上がる。それにヴィートは抑えて抑えてと手で制してゆき、
「ラウロ、これから戦の準備をして、どのくらいで出立できる」
その言葉にラウロは「えー」と、言いながら、手元の書類に目を落とす。そしてぺらぺらとその羊皮紙をめくりながら、どうやら計算をしているらしい、考え込むような表情を見せてゆくと、
「そうですね、あと、二か月ほどあれば」
ほぉーと、皆から感嘆の声が湧き上がる。そう、意外と早く、準備ができるとあって。その思いはヴィートも一緒で、
「早いな」
それにラウロはコクリと頷き、
「今、兵士達の気持ちは乗りに乗ってます。いえ、兵士だけでなく国民全部が。一か月で準備を済ませろと言えば、きっとそれも成し遂げてしまうでしょう。それ程、勢いがあるという事です。二か月で十分準備は整います」
一つの戦が終わったばかりだった。なので、本当は一年くらいゆっくり準備に時間をかけて、次の戦を進める予定だった。それが意外にも短期間で終わることを知り、ヴィートは思わず考え込む。そして、
「そうか。なら、二か月後、それを目指して我々は次の段階へ進もうか。このコルノの、一大転機となる戦を」
一つの決断だった。この勢いに乗って、早く先へ進めてしまおうと。それは、賭けにもなる判断で、
「いいかな?」
と、周囲に念を押すと、場内に盛大な拍手が湧き上がる。どうやら皆賛成らしく、ヴィートもまんざらじゃない顔をする。そして、その拍手が終わるのを見計らって、
「では、戦について、具体的な内容を話し合いたいと思う。まず……」
そう言って、ヴィートは手元の羊皮紙に目を落とす。が……。
その時、ヴィートから一番遠い席にいた辺りの者達が、何やらかをひそひそと話をしていた。そう、
「おい、あれはなんだ」
「もしや、もしやだが……」
とかいうものである。
目は窓の外、日の光が降る空の方である。
それに気づいて、ヴィートはなんだとチラリ窓の方を見る。だが、特に何も見えない。訝しげな顔をして、ヴィートはその者達を見遣ると、
「なんだ、何があったんだ」
すると、その者達は、
「陛下、窓の外をご覧ください。もっと、後ろの方です」
その声に促されるよう、今度は後ろを振り返って窓の外を見るヴィート。すると、目に入ってきたのは、
「ティア……?」
そう、ティアであった。ティアが、城の中庭にある雑木林の一本の木に、しがみついて上へ上へとよじ登っていっていたのであった。つまりは木登りである。
「一体何の為に……」
「刺繍はどうしたんだ、刺繍は」
「全くじゃじゃ馬とはこういう事を言うのですかな」
呆れたように重臣たちはがやがやとティアの噂話を零してゆく。そして、中にはこんな事を言うものもいて、
「いや、意外と脱走をはかっているのかも。木から木を渡り、この城壁を乗り越えようと」
全く、あり得ないことであった。さすがにそれはないだろうと、
「ははは、馬鹿な、いくら彼女でも、それは無理だろ」
「そうそう、流石にそれは」
外では、相変わらずティアが木登りに励んでいる。そう、この場がこんな状態になっているとは知りもせず。その場内、辺りは重臣達のざわめきに満ち、もう会議どころではなくなっていた。それを耳にしながら、ヴィートは厳しい顔をしてそれを見つめていたが、不意にその光景から目を背け、
「会議は一時中断だ、ちょっと待ってろ」
そう言って、その場から駆け出して行った。




