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**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密  作者: マサキ


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第7話:図書館デート、じゃなくて勉強会の件

第7話:図書館デート、じゃなくて勉強会の件


 土曜日の朝。

 珍しく、咲楽さんが早起きだった。


 僕がリビングに出ると、すでにテーブルに座って、何かを書いていた。

 今日は眼鏡じゃなくて、コンタクトにしていた。


 ……雰囲気、違うな。


 「おはようございます」


 「おはようございます。翔くん、今日は予定ありますか」


 「特にないですけど」


 「では図書館に行きましょう」


 「図書館?」


 「環境を変えると、学習効率が上がります」


 またデータか。


 「……わかりました」


 「朝ごはんを食べたら出発しましょう」


 「咲楽さんが朝ごはん作るんですか」


 「今日は翔くんに作ってもらおうかと」


 「最初からそのつもりでしたよね」


 「……環境が変わると、料理の効率も下がるので」


 「家で作るんですが」


 咲楽さんが、すっと視線を逸らした。


 ……料理が苦手なのを認めたくないんだな、この人。


 朝ごはんを食べて、家を出た。


 図書館は、歩いて十五分くらいのところにあった。


 梅雨が明けて、空が青かった。


 咲楽さんは白いワンピースを着ていた。

 いつものスーツっぽい格好じゃなくて、なんか、普通の女の子みたいで。


 ……普通の女の子みたい、って失礼か。


 「翔くん、ペースが遅いです」


 「咲楽さんが速すぎるんですよ」


 「そうですか?」


 咲楽さんが、少しだけ歩調を緩めた。


 並んで歩いた。


 ……なんか、これ。


 どう見てもデートじゃないか。


 勉強しに行くんだけど。


 「翔くん」


 「はい」


 「今日は数学の応用問題をやります」


 「……はい」


 完全に勉強しに行くんだった。


 図書館に着いた。


 平日より人が少なくて、静かだった。


 窓際の席を二つ取って、並んで座った。


 外から、木漏れ日が差し込んでいた。


 「では始めましょう」


 咲楽さんが、参考書とノートを広げた。


 僕も参考書を開いた。


 静かな図書館に、ページをめくる音だけが響く。


 ……悪くないな、こういうの。


 いつものリビングと違って、なんか、背筋が伸びる感じがした。


 「この問題、わかりますか」


 咲楽さんが、小声で聞いた。


 「……少し考えさせてください」


 「どうぞ」


 ペンを走らせながら、考えた。


 式を立てて、展開して、整理して。


 ……あ、これ。


 「できました」


 咲楽さんが覗き込んだ。


 「……正解です」


 小声なのに、嬉しそうなのが伝わった。


 「ありがとうございます」


 「次もいけますよ」


 「……はい」


 なんか、こういう時の咲楽さんの声、好きだな。


 好きだな、って。


 声が、ってことだけど。


 うん、声が、ね。


 一時間くらい経った頃。


 咲楽さんが「少し休憩しましょう」と言って、専門書のコーナーへ歩いて行った。


 僕はそのまま席に残って、水を飲んだ。


 しばらくして、咲楽さんが分厚い本を抱えて戻ってきた。


 「読んでいてもいいですか」


 「いいですよ、休憩ですし」


 咲楽さんが、本を開いた。


 僕も参考書の続きを読もうとした。


 でも。


 気づいたら、咲楽さんの横顔を眺めていた。


 ……綺麗だな。


 木漏れ日が、咲楽さんの横顔に当たっていた。

 コンタクトにした目が、本のページを追いかけている。

 時々、ページをめくる白い指。

 少し開いた唇。


 ずっと見ていられるな。


 って、何考えてるんだ俺は。


 慌てて参考書に視線を戻した。


 数式が、頭に入ってこなかった。


 当たり前だ。


 「翔くん」


 「っ、はい!」


 「声が大きいです、図書館ですよ」


 「す、すみません」


 咲楽さんが、小さく笑った。


 「どうかしましたか」


 「何でもないです」


 「さっきからページが進んでいませんよ」


 「……考えていました」


 「何を」


 言えるわけがない。


 「数式を」


 「どの数式ですか」


 「えっと、この辺の」


 「それ、さっき解いた問題のページですよ」


 「……復習です」


 咲楽さんが、首を傾けた。


 不思議そうな顔で、こちらを見ている。


 その顔が、また。


 ……綺麗だな。


 「咲楽さん」


 気づいたら、声が出ていた。


 「はい」


 「……綺麗だなって思って」


 一秒。


 二秒。


 三秒。


 静かな図書館に、沈黙が落ちた。


 ……言った。

言ってしまった。


 咲楽さんが、瞬きをした。


 目が、少し丸くなっていた。


 頬が、じわりと赤くなっていくのが、わかった。


 「……今、何と」


 「あ、いや」


 「言いましたよね、今」


 「き、気のせいじゃないですか」


 「気のせいじゃないです、聞こえました」


 聞こえてたか。


 当たり前だ、目の前にいるんだから。


 「……木漏れ日が、きれいだなって」


 「木漏れ日」


 「はい、木漏れ日が」


 咲楽さんが、窓の外を見た。


 それから、また僕を見た。


 「……木漏れ日を見ていたんですか」


 「見ていました」


 「私の方を向いていましたよ」


 「木漏れ日が、咲楽さんの後ろに、あったので」


 沈黙。


 咲楽さんが、本をぱたりと閉じた。


 バッグから、研究ノートを取り出しかけた。


 でも。


 少し間があって。


 そっと、バッグに戻した。


 ……取り出さなかった。


 「翔くん」


 「はい」


 「……勉強の続き、しましょう」


 「はい」


 「集中してください」


 「します」


 「木漏れ日じゃなくて、参考書を見てください」


 「見ます」


 咲楽さんが、また本を開いた。


 でも、耳が真っ赤なのは、隠せていなかった。


 ……やばい。


 かなり、やばい。


 僕は参考書に顔を埋めながら、心臓がうるさいのをごまかした。


 帰り道。


 また並んで歩いた。


 今度は、二人とも少し無言だった。


 気まずいわけじゃない。

 なんか、不思議な空気だった。


 「翔くん」


 「はい」


 「今日は、よく集中できていましたよ」


 「……最初は全然でしたけど」


 「後半はよくできていました」


 「ありがとうございます」


 「また来週も来ましょう」


 「……いいですよ」


 咲楽さんが、少し嬉しそうに頷いた。


 夕方の空が、オレンジに染まっていた。


 その色が、咲楽さんの横顔を照らしていた。


 また綺麗だなって思った。

今度は、声には出さなかった。


 「翔くん」


 「はい」


 「さっきの、木漏れ日」


 「はい」


 「……私も、綺麗だと思いました」


 「木漏れ日が?」


 「…………木漏れ日が」


 咲楽さんが、前を向いたまま言った。


 耳が、またうっすら赤かった。


 ……木漏れ日が、だよな。

うん、木漏れ日が。


 「そうですね、綺麗でしたね」


 「……そうですね」


 二人で、同じ方向を向いて歩いた。


 夕焼けが、どんどん深くなっていった。


 やばい同居生活の、二十八日目が終わった。


第7話 完


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