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**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密  作者: マサキ


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第4話:ライバル登場、なんか嫌な予感がする件 

第4話:ライバル登場、なんか嫌な予感がする件 


 月曜日の朝。

 僕は教室に入った瞬間、空気が違うことに気づいた。


 なんか、見られている。


 気のせいかと思ったけど、気のせいじゃなかった。


 席に着くと、隣の山田が身を乗り出してきた。


 「なあ翔、お前最近なんか変わったよな」


 「そうか?」


 「なんか、シャキッとしてる」


 「してるかな」


 「してるよ。先週の小テスト、平均点超えてたじゃないか」


 「……まあ、ちょっと勉強したから」


 「お前が勉強!?」


 声がでかい。


 周りの何人かが振り返った。


 やめてくれ。


 「普通にするだろ勉強くらい」


 「いや、お前去年の期末、学年で下から三番だったじゃないか」


 「それは言わなくていい」


 「何があったんだよ、家庭教師でも来たか?」


 「…………」


 「え、まじで?」


 顔に出てた。


 「来てない」


 「絶対来てるじゃないか!!」


 山田の声が、また教室に響いた。


 だから声がでかいって。


 昼休み。


 僕はひとりで購買のパンを食べていた。


 窓の外を眺めながら、昨日の夜のことを思い出していた。


 咲楽さんが夕飯に挑戦して、今度は味噌汁に砂糖を入れた。


 ……どうしてそうなるんだ。


 でも、「すみません」ってしゅんとした顔が、なんか可愛くて。


 って、何考えてるんだ俺は。


 「神崎くん」


 急に声をかけられて、パンを落としそうになった。


 振り返ると、女子が立っていた。


 クラスメイトだ。


 確か……。


 水瀬、凛。


 成績学年トップ。


 見た目は、さらっとした黒髪のショートで、背筋がすっと伸びていて、いつも涼しい顔をしている。


 話したことは、ほとんどない。


 「……水瀬? 何か用?」


 「少し、いい?」


 有無を言わさない口調だった。


 なんだろう。


 凛が、向かいの席に座った。


 そして、まっすぐ僕を見た。


 「最近、変わったよね」


 「今日それ二回目だ」


 「事実だから」


 凛が、腕を組んだ。


 「先週の小テスト、見たよ。数学、72点だったでしょ」


 「……見てたの?」


 「たまたま目に入っただけ」


 たまたまにしては、詳しいな。


 「それが何か?」


 「あなた、先月は30点台だったよね」


 「……知ってるんだ」


 「クラスの成績くらい、だいたいわかる」


 凛が、少し眉を寄せた。


 「一ヶ月で40点近く上がるって、普通じゃない」


 「まあ、色々あって」


 「何があったの」


 「……勉強した」


 「何かきっかけがあったでしょ」


 鋭い。


 「別に、特には」


 凛がじっと僕を見た。


 探るような目だった。


 でも、それ以上は聞いてこなかった。


 「……そう」


 短く言って、立ち上がった。


 「頑張ってるじゃない」


 「……どうも」


 「でも」


 凛が、行きかけて振り返った。


 「調子に乗らないでね。学年トップは、渡さないから」


 学年トップなんて目指してないけど。


 「……わかった」


 凛はそれだけ言って、さっさと行ってしまった。


 ……なんだったんだ。


 僕は落としかけたパンを、もう一度持ち直した。


 放課後。


 下駄箱で靴を履き替えていると、また声がした。


 「神崎くん」


 凛だった。


 また、か。


 「……なに」


 「一緒に帰らない?」


 は?


 「……同じ方向だっけ」


 「知らない。でも少し話したいことがあって」


 謎だ。


 断る理由もなかったので、並んで歩くことになった。


 校門を出て、しばらく無言だった。


 凛が先に口を開いた。


 「昔から知ってるよ、あなたのこと」


 「……そうなの?」


 「小学校、同じだったから」


 言われて、記憶をたぐり寄せた。


 ……あ。


 「水瀬って、もしかして」


 「覚えてなかったんだ」


 凛が、ため息をついた。


 怒っているわけじゃない。


 ただ、少しだけ呆れたような顔だった。


 「ごめん、全然気づかなかった」


 「まあ、いいけど」


 「そっか、じゃあ幼馴染みたいなもんか」


 「……みたいなもん、ね」


 凛が、少し視線を逸らした。


 何か言いたそうな顔だったけど、何も言わなかった。


 「それで、話したいことって?」


 「……最近、楽しそうだなって思って」


 「え?」


 「あなた、去年まで、なんかぼんやりしてたから」


 ぼんやり。


 否定できなかった。


 「今は、違うの?」


 「……なんか、毎日忙しいから」


 「忙しいと楽しいは違うでしょ」


 「まあ……両方かな」


 凛が、ちらっとこちらを見た。


 「何があったか、やっぱり聞いてもいい?」


 少し考えた。


 別に隠すことでもない気がした。


 「家庭教師が来たんだ」


 「やっぱり」


 「山田にも同じこと言われた」


 「顔に出てたから」


 わかりやすいな俺。


 「どんな人?」


 「……東大の院生」


 「へえ」


 「教え方が、すごく上手くて」


 「それだけ?」


 「え?」


 凛が、またこちらを見た。


 「なんか、顔が緩んでるけど」


 「……緩んでない」


 「緩んでる」


 緩んでたのか。


 「教え方が上手いって言っただけだろ」


 「その割に、顔がにやけてた」


 「にやけてない!!」


 凛が、小さくため息をついた。


 「……男の人?」


 「え? いや、女性だけど」


 一瞬、凛の表情が動いた。


 気のせいかと思うくらい、一瞬だった。


 「そう」


 「うん」


 「……何歳?」


 「二十三」


 「年上じゃない」


 「まあ」


 凛が、また視線を逸らした。


 「……ふうん」


 それだけ言って、黙った。


 なんか、機嫌が悪くなった気がする。


 気のせいかな。


 分かれ道で、凛が立ち止まった。


 「私、こっちだから」


 「そっか。じゃあまた」


 「……神崎くん」


 「うん?」


 凛が、真っ直ぐこちらを見た。


 「その家庭教師の人、信用できる人なの?」


 唐突な質問だった。


 「……なんで?」


 「なんとなく」


 「信用してるよ、普通に」


 凛が、少し眉を寄せた。


 何かを言いかけて、やめた。


 「……そう」


 「それだけ?」


 「それだけ」


 凛はそう言って、さっと背を向けた。


 「勉強、頑張りなよ」


 「……ありがとう」


 凛の背中が、遠ざかっていった。


 なんか、不思議な奴だな。


 小学校の時の記憶を、もう少し掘り返してみたけど、あまり出てこなかった。


 まあ、いいか。


 家に帰ると、咲楽さんがソファでうとうとしていた。


 論文らしき紙の束を胸に抱えたまま、こくりこくりと舟を漕いでいる。


 ……また寝落ちしてる。


 「咲楽さん」


 「……んぁ」


 「起きてください」


 「……データが……有意差が……」


 寝言まで研究の話してる。


 「咲楽さん!」


 「っ……あ、翔くん」


 咲楽さんがぱっと目を開けた。


 眼鏡が少しずれていた。


 髪も少し乱れていて。


 ……なんかずるい格好してるな、無自覚に。


 「おかえりなさい」


 「ただいまです。論文読みながら寝てましたよ」


 「読みながら考えていたら、いつの間にか」


 「それを寝落ちって言います」


 咲楽さんが眼鏡を直しながら、ちょっと照れた顔をした。


 「……今日の授業、始めますか」


 「その前に顔洗ってきてください、目が据わってますよ」


 「……失礼な」


 「事実です」


 咲楽さんが、むっとした顔で立ち上がった。


 そして、案の定。


 テーブルの角に、足の小指をぶつけた。


 「……っ」


 「大丈夫ですか」


 「平気です、慣れてるので」


 「小指をぶつけることに慣れないでください」


 咲楽さんが、びっこをひきながらキッチンへ向かった。


 ……ほんと、何なんだこの人。


 東大院生が聞いて呆れる。


 でも、なんか。


 ……いないと困るな、もう。


 自分でそう思って、少し驚いた。


 一ヶ月前の俺には、想像もできなかった感情だ。


 夜の授業が終わって、咲楽さんが研究ノートを開いた。


 いつものやつだ。


 さらさらとペンを走らせながら、咲楽さんが聞いた。


 「今日、学校はどうでしたか」


 「普通でした。あ、幼馴染に話しかけられて」


 「幼馴染?」


 「女子で、水瀬凛って言うんですけど」


 咲楽さんのペンが、一瞬止まった。


 「……女子の幼馴染」


 「小学校が一緒だったみたいで、全然覚えてなかったんですけど」


 「仲がいいんですか」


 「いや、今日初めてちゃんと話した感じで」


 「……そうですか」


 咲楽さんが、また何かを書き始めた。


 「なんか、咲楽さんのこと信用できるかって聞いてきて」


 「私のことを?」


 「家庭教師がいるって話したら」


 咲楽さんが、ちょっと複雑な顔をした。


 「……どう答えたんですか」


 「信用してるって」


 一秒、間があった。


 「……そう、ですか」


 咲楽さんの声が、少し柔らかくなった気がした。


 研究ノートに何かを書いて。


 それから、独り言のように呟いた。


 「……複雑ですね」


 「え、何が?」


 「何でもありません」


 また独り言。


 「咲楽さん、独り言多いですよね」


 「几帳面なので」


 「それ、独り言が多いこととは関係なくないですか」


 咲楽さんが、すっと視線を逸らした。


 耳が、ほんのり赤かった。


 ……なんか今日も、よくわからない一日だったな。


 凛のことも、咲楽さんのことも。


 まあ、いいか。


 僕は参考書を閉じて、大きく伸びをした。


 やばい同居生活の、二十三日目が終わった。


第4話 完


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