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第25話 その美少女、家を買われる

 俺──ミナモ=セレスティアは、コンテストで手に入れた優勝賞金、1000ゴールドを握りしめていた。


「レナ、これで当分の生活費は安心だな」

「だねぇ! 美味しいものも食べれるね!」

「おう! 優勝祝いでもするか!」


 レナも、そして俺も上機嫌だった。……その時までは。

 


 コンテスト会場を後にしようとした俺たちの目に、見慣れた顔が飛び込んできた。

 クラン《暁の方舟》のライヴェルだ。


 そういえば、後でクランハウスに来てくれと言われていたのを思い出し、俺たちはそのままクランハウスに立ち寄った。


「セレスティア様、コンテストで優勝されたようですね。さすがです」


 ライヴェルは俺たちを見るなり、驚いたように目を見開いた。

 さすが、情報が早い。

 隣でレナが「フフン!」と鼻息を荒くしている。


「いえ、運が良かっただけですわ」

「しかし、まさかあの『にゃんてったって☆アイドル!』を披露されるとは思いませんでしたよ」

「うぇっ!? ご、ご存じでらしたんですね……?」


 そこまで知っていたのか……

 ライヴェル、お前もアイドル好きだったのか……?

 心の中でツッコミを入れていると、ライヴェルが居住まいを正した。


「そういえばセレスティア様、まだ宿屋に泊まられているんでしたよね?」

「え? はい、そうですわね」

「であれば、優勝賞金で『マイハウス』を購入されてはどうでしょうか?」


『マイハウス』? いったいなんだそれは?

 俺がレナの方を見ると、レナも同じように「『マイハウス』?」と首を傾げている。

 こいつ、このゲームの事をなんも知らないんだな……


「宿屋で宿泊費を払うより、長期的に見れば得だと思いますよ」

「はい、なるほど……?」

「まぁ……自宅のようなもので、アイテムを格納したり、オリジナルのハウジングが出来たりと人気ですよ」


 ライヴェルは俺たちが『マイハウス』を知らない事を察してか、丁寧に説明してくれた。

 たしかに、長期的に見れば宿代を払い続けるよりは得なのかもしれない。


「値段も立地も、ピンキリですのでゆっくりと探してみるのが良いかと思います」

「ご助言ありがとうございます、そうしてみますわ」


 そう言って、俺たちはクランハウスを後にした。



「お兄ちゃん! 家、買いたいね! すぐ買おうよ!」

「いや、いきなりは見つからんだろ……」


 レナはもう家を買う気満々だ。

 俺も多少の興味はあるが、いきなり家を買うということに実感が湧かない。


「あ! あの家、売ってるみたいだよ!」

「へっ?」


 レナが指さした先にあったのは、大きくはないものの、豪邸のような豪華さを湛えた一軒家だった。

 門には、『販売中』と書かれた看板が立てられている。


「お兄ちゃん! この家、セレスティア様にピッタリじゃない?」

「そのセレスティア様で全てを判断する癖、やめてくれよ。ってこの家、高すぎじゃないか?」

「え? うーんと、10000ゴールドだね」


 俺たちがコンテストで手に入れた賞金が1000ゴールド。

 そして、この家が10000ゴールド。

 ……10倍だ。高すぎる。


「この家は無理そうだな」

「え? でも買えたよ?」

「……え?」


 一瞬、レナが何を言っているのか分からなかったが、すぐに理解した。

 レナは販売中の看板に付いていた『購入ボタン』を、何の躊躇もなく押したようだった。

 すぐに看板の表示が変わり、『購入済み:レナ』となっていた。


「お前……俺たち1000ゴールドしか持ってないんだぞ!?」

「でも買えたし、割引だったのかなぁ?」

「そんなはずないだろ……あ! サイフの中の金がなくなってる!」


 コンテストで貰ったばかりの優勝賞金が、跡形もなく消え去っている。

 そして、代わりにサイフの中には一枚の紙きれが入っていた。


「なんだ、この紙きれは?」

「なになに?」


 レナがサイフの中の紙きれを取り出し、広げてみた。

 そこに書かれていた内容は、俺の目を疑うものだった。

 『マイハウス購入のため、9000ゴールドの借金が発生しました』


「おいレナ! なんか、すげぇ金額の借金になっちまったぞ!」

「ふーん?」

「え? ふーんて……」


 こいつ、分かってるのか……?

 俺の焦りをよそに、レナは首を傾げた。


「でも、宿代を払うなら借金を払った方が良くない?」

「え? そういうもんか?」

「だって宿代なんて払っても、宿を貰えるわけじゃないんだよ?」


 言われてみれば、そういう気もする……

 なんか俺が間違ってるのか……?


「でもこれでさ、おうち買えたね! 宿屋から荷物取ってこようよ!」

「えっと……そ、そうだな……」


 レナに丸め込まれた感じはするが、俺たちは家を買った。

 いや、正確には「買われた」という言葉の方が正しい気もするが。



 宿から荷物を回収し、俺たちは新居に向かった。


「じゃあ、お兄ちゃん。門、開けてみるね」


 小さいながらも立派な門構えだ。

 それを恐る恐る、レナが開ける。

 門はギーという音とともに、ゆっくりと開かれた。


 中に入ると、小さな庭が付いている。

 家も綺麗な戸建てで、ファンタジーの世界にぴったりの様式だ。


「この家さぁ、セキュリティも万全みたいでさ。他の人たちは入れないらしいよ」

「へぇ、そりゃいいな。安全なのは良い事だ」

「良いですねぇ、女のあたい達にとってはセキュリティは大切ですからね」


 ……ん?

 聞き慣れた声が横から聞こえる。

 横を見ると、グラージョがいた。


「お前、いつの間に……?」

「そ、そんな……コンテストの時からずっと居ましたけど……なんなら、一緒に喜んだりしたんですけど……」

「え……? そ、そうか」


 まったく記憶にないが、いたんだろうか?

 いや、記憶に薄っすら覚えがある気がする。

 こいつ、いつも存在感が薄すぎないか?


 グラージョは少し、涙目になっていた。

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