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第4章 : 月明かりと紅色の熱に浮かされて

数日後、学園の舞踏会が訪れた。ゲームの序盤の重要イベントで、本来なら主人公が攻略対象のダンスを踊って好感度を大きく上げるチャンスのイベントだが、俺は今回クラリッサと踊る約束をしている。

そして、リナの介入がバッドエンドフラグを立てる危険な場面でもあるから慎重にならなければいけない。


「殿下、今回は私がお待たせしてしまいましたね」


クラリッサは深紅のドレスで現れた。気品と脆さが共存する姿に、思わず心が高鳴る。


「クラリッサ、すごく綺麗だ」


彼女は頬を染め、そっぽを向く。


「アリウス殿下、今夜はせめて私を失望させないでくださいまし」


頬を染めながらにやりとからかうような笑みを浮かべる。ダンスフロアで彼女の手を取る。彼女の瞳に、信頼の兆しが見える。だが、リナが現れる。


「アリウス殿下!私と踊って下さいませんか?」


耳元の髪を触りながら手を差し出す仕草に里奈の影が一瞬よぎる。だが、俺はクラリッサの手を離さない。


「リナ、悪いが今夜はクラリッサと踊る」


リナの瞳が揺れる。クラリッサが驚いたように俺を見る。


「殿下……」

「クラリッサ、約束しただろ?今日一日、貴女と共にいたい」


とてもクサい台詞だ。言っててすごく恥ずかしい。だが、今にも火がつきそうなくらい顔を真っ赤にするクラリッサの瞳に柔らかな光が宿る。彼女の心に一歩近づけた手応えを感じる。彼女の手は細く、わずかに震えている。

ワルツの旋律が流れ、俺たちは息を合わせてステップを踏む。クラリッサのドレスが優雅に揺れ、彼女の瞳が俺を見つめる。初めて見る柔らかな光に、胸が高鳴る。


「クラリッサ、綺麗だ」


本音が零れる。彼女は目を瞬かせ、頬をさらに赤らめる。


「アリウス殿下……」


彼女の声は気高さを保ちつつ、照れが滲む。

ステップが軽やかになり、まるで二人だけの世界にいるようだ。彼女の温もりが、里奈の遠い記憶を完全に覆い隠す。


ダンスの後、クラリッサが小さく息をつく。


「アリウス殿下、ホールが少し暑いですわ。外の空気を吸いに行きませんか?」


彼女の提案に頷き、二人でホールのテラスへ出る。星空が広がり、夜風が涼しく頬を撫でる。クラリッサが欄干に寄り、星を見上げる。真紅の髪が月光に輝き、儚げな美しさに息を吞む。


「クラリッサ、貴女はこんな夜空のような人だ。気高く、でもどこか届かない」


彼女は目を瞬かせ、軽く笑う。


「ふふ、アリウス殿下。また詩人のような言葉を。

そんな言葉、どこで覚えたのです?」

「貴女を見ていたら、自然と出てくるんだ」


彼女の頬が赤らみ、視線を逸らす。ツンデレな態度が愛らしい。俺は一歩近づき、彼女の肩に触れる。


「冷える前に、これを」


自分のマントをそっと彼女の肩にかける。彼女は驚いたように俺を見上げ、すぐに目を逸らす。


「貴方の気遣い、嫌いではありませんわことよ」


照れ隠しに強がって見せるクラリッサだが、肩に寄りかかる仕草に心が温まる。

星空の下、彼女の吐息が近く、二人だけの時間が流れる。


「クラリッサ、今まで本当にすまなかった」

「本当ですわ。私ずっと辛い思いしていたんですの。お分かりいただけまして?」


こちらをむいて幼い女の子のように頬を膨らませるクラリッサの思わず笑みがこぼれる。


「殿下、何を笑っているのかしら!私は真剣に!」

「これからはクラリッサのことだけ見ていたい」

「本当かしら。信じられませんわ。誰にでもそう言い聞かせてるのでなくて?それに、どうしてずっと放っておいた私にいきなり興味をしめされるのですか?」


そっぽを向くクラリッサにどうすればいいのかと思考を巡らせる。

確かに、浮気者のアリウスがこんな事を言ったところで信用されないのは当たり前だ。


「クラリッサが向けてくれる好意にやっと気がついた。今まで気づかなくて本当にすまなかった」


その一言にクラリッサが固まる。

そして真っ赤に染まった顔を隠しながらもじもじしながら言い放った。


「アリウス殿下……いいですわよ。貴方を信じても」

「本当か?」


クラリッサはコクリと頷く。

彼女の熱を帯びた視線に胸が高鳴る。


「言いましたわよね。信じてほしいなら……その…行動で…ね?」


彼女の手が俺の手に触れ、軽く握る。

俺はその手を握り返すと、彼女を抱き寄せキスをした。未練も溶かしてくれそうな甘くて暖かい温もりに包まれながら、長い夜が満ちていく。

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