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第3章 : クラリッサの涙

王立学園の入学式から数日が過ぎ、アリウスとしての生活に慣れつつあった。

里奈を失った痛みは胸の奥で疼くが、クラリッサを救う使命が俺を突き動かす。

彼女のバッドエンドを防ぐため、ゲームのシナリオに抗わねばならない。

入学式でのリナとの一件がクラリッサの誤解を深めたままなのが気がかりだ。

あの後、リナに断りを入れてクラリッサを追ったが結局見つからなかった。

あの耳元の髪を触る仕草が里奈を思い出させたが、今はクラリッサに集中する時だ。


「アリウス様、クラリッサ様が学園の庭園でお待ちです。図書館での一件以来、機嫌が優れません。」


ローゼの静かな声が俺を現実に引き戻す。銀髪が朝陽に輝き、灼眼には忠誠と僅かな心配が宿る。彼女の気遣いは、転生後の俺を支える柱だ。



庭園に着くと、クラリッサが薔薇のアーチの下に立っていた。真紅の髪が風に揺れ、サファイアの瞳が鋭く俺を捉える。気高い美しさに胸が高鳴る。彼女を救いたい。その想いが、里奈の影を薄れさせる。


「アリウス殿下、遅刻ですわ。貴方の無責任さには呆れます」


彼女の声は冷ややかだが、瞳の奥に傷が覗く。入学式での誤解が彼女を遠ざけている。


「クラリッサ、貴女の美しさに足が止まっただけだ。許してくれ」


軽妙に微笑む。彼女は頬を染め、目を逸らす。


「ふん! そんな言葉で誤魔化せるとでも?」


ツンデレな反応に心が軽くなる。俺は一歩近づき、真剣に言う。


「クラリッサ、入学式のことは誤解だ。俺は貴女と向き合いたい」


彼女の瞳が揺れる。一瞬、柔らかな表情が覗くが、すぐに気高く取り繕う。


「言葉だけでは信じられませんわ。行動で示しなさい。」


その挑戦的な言葉に、俺は微笑む。クラリッサの心を開くチャンスだ。

庭園を二人で散歩した後一度別れ、午後にまた学園の図書館で一緒に歴史書を読む約束をし解散した。この世界の元になっているゲームのシナリオではこうした小さなイベントが信頼を築く鍵になってくるのだが、彼女のルートは存在しないし、この行動に意味があるのかはわからないがまずは彼女と時を共にする事が先決だろう。


図書館に入ると、クラリッサが窓辺の席で待っていた。彼女の真剣な横顔に、俺の決意が強まる。


「アリウス殿、時間通りですわ。意外ですわね」

「貴女との約束を破るわけにはいかないよ」


彼女の唇がわずかに緩む。

多少なりとも好感度アップできたか?

いい流れだ。だがその瞬間、図書館の扉が勢いよく開いた。


「アリウス殿下〜!や〜っと見つけました!」


リナだ。赤みがかった茶色の髪を揺らし、眩しい笑顔で突進してくる。

そして俺の腕に抱きつく。


「リナ、何の用だ? 今はクラリッサと——」

「えー、いいじゃないですかっ!図書館の奥にすごい魔法書があるんですよ!知ってました?一緒に見に行きましょ?ね?」


彼女の距離感ゼロの勢いに、どこかシナリオの強制力をみたいなものを感じる。ヒロインの魅力とどこか里奈と重なる姿が俺をクラリッサから引き離そうとする。そして、クラリッサの視線が冷たくなる。


「アリウス殿、この平民の女といつまで戯れるつもりですの?」

「クラリッサ、待ってくれ! これは——」

「言い訳は聞きませんわ!」


クラリッサが立ち上がり、図書館を去る。

バッドエンドの危機が近づく。

胸が締め付けられるが、里奈の痛みとは違う。

クラリッサを失う恐怖だ。


「リナ、君の行動は誤解を招く。控えてくれ」


声を低くする。リナは目を丸くして笑う。


「え、なんで? アリウス殿下と仲良くしたいだけなのに……」


ポカンと意味がわからない様子で立ち尽くすリナ。

動揺で彼女の口調が崩れる。

主人公としてアリウスと仲良くなりたいのはわかるが、申し訳ないけど俺はクラリッサと添い遂げるって決めたんだ。


「悪いが、婚約者に誤解されるんだ。俺以外の人と仲良くしてくれないか?」


リナの笑顔が曇るが、すぐに明るさを取り戻す。

ただ、さっきまでの底抜けの明るい笑みではなく、どこか影があるようなそんな笑顔だった。


「ふーん、了解! でも、また来るからね!」

「お、おい!!」


彼女が走り去り、ため息をつきながら俺はクラリッサを追う。彼女を救うためには彼女の好感度を上げなければいけない。そしてそのために信頼を取り戻さねば。

学園内を探し回っていると先ほどの庭園に辿り着いた。そこにクラリッサがぽつんと立っていた。

外はもうすっかりと暗くなっているのに、月明かり照らされた彼女の紅の髪が艶やかに輝いていた。


「クラリッサ……!!」


背後から声をかけると、ビクリと肩を振るわせながら彼女は振り向いた。

振り向いた彼女の目の周りは少し腫れているように感じた。


「殿下。恋人はよろしいのですか?」

「恋人?」

「先ほどの平民ですわ」


軽口を言う彼女の口調は少し震えている。


「彼女とは本当に何も……」

「いいんです。もう慣れましたわ」


慣れ?そうか……アリウスってめっちゃ女ったらしの設定だったな。

今まで沢山浮気現場を婚約者であるクラリッサに見られてきたのだろう。


「わかっていますわ。私みたいなめんどくさい女殿下の好みではないって」


クラリッサの目から涙が溢れる。


「違うんだ。クラリッサ」

「何も違わないではないですか。私の事を好きにはなれないってはっきり仰ったらどうですか?」


どんどんと頬を伝い落ちる涙。

そんな彼女の姿に抱きしめずにはいられなかった。


「……っ!?殿…下」

「学園に来た時にクラリッサが言った言葉覚えてるか?行動で示せって。今度の舞踏会、俺と踊ってほしい」


彼女を破滅の未来から救うためにこの世界で俺は彼女を攻略しようと思っていた。だけど、今、俺の胸にあるのは、目の前で泣いていると女の子と恋人として婚約者として添い遂げたいと言う感情だった。

ただ、不器用だけどアリウスを愛する彼女に寄り添って安心させてやりたい。そう思った。

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