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第2章:転生、未練とこれから

目覚めると、豪華絢爛な宮殿の寝室だった。

天井に星座の装飾、ベッド脇に銀の鏡。鏡に映るのは金髪とエメラルドグリーンの瞳を持つ貴公子。


「ど、どう言う事だ……!?」


混乱しながら鏡をぺたぺた触りながら顔を観察する。この顔には見覚えがあった。

『星巡りの聖女』の攻略対象、エルノー王国の第三王子だ。傲慢で女たらし、婚約者のクラリッサを裏切り、破滅に導く男。里奈が愛したゲームの世界。

あまりにも非現実だが、夢にしてはあまりにも解像度が高すぎるこの現状にこれ結論付けるしかなかった。


「俺、死んで転生しちまったっていうのか……?」


頭を打った衝撃、机の角の硬さ、そして走馬灯のように浮かんだ里奈との思い出……俺は死んだ。

27年の人生、里奈との5年が終わり、この異世界に放り込まれた。アリウスの記憶が断片的に流れ込む。宮廷の礼儀、剣術、魔法、クラリッサとの婚約。俺の知識と彼の人生が混ざり、頭が締め付けられる。


「落ち着け……隆之介、いや、アリウスか……」


鏡を見つめる。この顔、この身体は俺じゃない。

なのに動かせば反応し、声は貴族の響きを帯びる。死んだはずの俺がなぜここに? 里奈を失った痛みが胸に広がる。二度と彼女と会えないという現実が転生の衝撃以上に俺を苛む。俺は彼女との未来を失った。自己否定が心を締め付ける。


「この世界にはクラリッサがいるのか」


折れかけの心にクラリッサを救う使命が新たな目的を与える。里奈への感情や未練はまだ消えないが、クラリッサの悲劇を回避して彼女を救う。

それが俺がアリウスに転生した意味なのだろう。


「クラリッサ……お前を死なせない」


パチンと自身の頬を叩く。


彼女への未練は容易には断ち切れないだろうが、転生したのに女々しくうじうじ生きていても意味がない。俺はクラリッサと添い遂げるそう決めた。


「おはようございます。アリウス様。朝食の準備が整いました。お召し替えを」


コンコンとドアをノックして銀髪に燃えるような赤い瞳のメイドが部屋に入ってきた。

ローゼ、アリウスの専属メイドだ。静かな献身を湛えた灼眼が俺を見つめる。ゲームでは、アリウスに秘めた想いを抱きつつ、完璧なメイドとして支える頼もしい味方だった。


「おはよう。ローゼ、ありがとう。食事の後、クラリッサの元へ参る準備を頼む」

「かしこまりました。クラリッサ様の予定も確認済みです。」


彼女の落ち着いた声と控えめな仕草に、心がわずかに温まる。 


「いつもありがとう」


ローゼの灼眼が一瞬揺れ、すぐに頭を下げる。

彼女の献身が、アリウスの記憶と共に俺の心に響く。



その日の午後、王立学園の入学式に臨んだ。転生から数時間、心はまだ里奈の不在に沈む。死の衝撃、徹夜の疲弊、彼女の「ごめん」が脳裏をよぎる。

クラリッサを救う決意だけが俺を支えるが、里奈への未練が消えない。


「アリウス殿下、遅刻とは不届きですわね。婚約者として恥ずかしい限りですわ!」


クラリッサだ。真紅の髪とサファイアの瞳が気品を放つ。公爵令嬢らしい優雅な口調にゲーム以上の魅力がある。彼女は俺の推しであり、救うべき存在だ。


「申し訳ないね、クラリッサ。それにしても貴女の美しさは星々を凌駕するな」


アリウス本の口調でクラリッサを褒めちぎる。

キザすぎるがそれくらいがこの世界ではちょうどいいらしい。

彼女は頬を染め、目を瞬かせる。


「な、何ですの、その軽薄な言葉は! 不愉快ですわ!」


ツンデレな反応に少し心がときめくな、里奈の影が絡みつく。だけど、もう決めたんだ。

クラリッサを救って。添い遂げると。

そんな事を考えていると、ホールにざわめきが広がる。


「彼の方が平民の特待生?」

「まあ、なんと愛らしい方なのかしら!」


現れたのは赤みがかった茶髪をハーフアップにした少女。柔らかな笑顔が眩しい。このゲームの主人公だ。平民出身ながら攻略対象を魅了するヒロイン。クラリッサの破滅を防ぐため、彼女を避けねばならない。


「主人公流石の可愛さだな。だが、俺はクラリッサ

一筋だ。」


スルーしようとした瞬間、リナが近づいてきた。


「アリウス殿下。初めまして! 特待生として入学いたしました。リナと申します!!お見知り置きを!!!」


距離感ゼロの笑顔。耳元の髪を触る仕草に、里奈の影が重なる。そう言えば、主人公の名前は自分で設定出来るはず。主人公の子”リナ”って言ってたよな。まさか……いや、考えすぎだ。


「ああ、よろしく頼むよ」


冷静に応じ、クラリッサの元へ戻ろうとすると、リナがさらに踏み込む。


「ね、アリウス殿下。この学園に何度も訪問なされた事があると聞きました。よければこの学園を案内して頂けませんか?恥ずかしながら私、方向音痴でして……」


開始5秒で好感度イベントだと!? シナリオが早すぎるだろ……

俺全然喋ってないんだけど。


クラリッサが鋭い視線を向ける。


「クラリッサ、誤解だ! 俺は——」


「弁明は不要ですわ! 殿下が軽薄な方なのは私がよーーーーーく知っておりますのでっ!」


彼女が踶を返し去っていく。バッドエンドの予感が胸を締める。里奈を失った痛みが、クラリッサを失う恐怖と共鳴する。


ローゼがそっと近づく。


「アリウス様、リナ様の行動が積極すぎるかと。ご注意を」


彼女の灼眼に忠誠が宿る。

様々な不安を彼女の支えで落ち着かせてくれる。


「感謝する、ローゼ。気をつけるよ」


ローゼが囁く。


「リナ様の背景を調べますか? 平民としては不自然かと」

「大丈夫だ。必要になったらその時は頼む」

「承知いたしました」


リナの笑顔と癖が里奈を思わせる。

だが、彼女はゲームのヒロインだ。

俺の心はクラリッサに捧げると決めたはず。

なのに、里奈への未練が俺の決意を揺さぶる。

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