酔い覚めの月 【月夜譚No.317】
夜風が酔いを攫っていく。座った縁側に手をついて仰いだ先には、大きな月が見えた。
中秋の名月とは、よくいったものだ。確かにここ最近の月は、特別綺麗に感じられる。
酔い覚ましの水を片手に、家の奥から聞こえてくる楽しそうな笑い声に私は思わず苦笑を漏らした。
今夜はこの友人宅で飲み会が開かれている。月見酒をしようと銘打ってはいるが、実際はリビングでつまみや酒を広げているのだから、月はほとんど見えない。月見はただの口実で、皆酒が飲みたいだけなのだ。
間違って友人の強い酒を呷ってしまった私は少々気分が悪くなり、一人抜けて休憩をすることにした。先ほどまで苦い思いでいたが、こうして本当に月が見られたから良しとしておこう。
皆と呑む酒は旨いが、こうして喧騒を遠くに聞きながら一人月を愛でるのも悪くはない。
世界を見下ろす月を瞳に映して、私は頬を掠める風に秋を感じながら水を傾けた。