82 逃亡
「レイリ、誰でもいいからスフエクで交替して逃げろ。禁書がなくなればジークスがここで戦う理由は無くなる。運が良ければ全員助かるかも知れねぇ。」
タロトが真剣な顔で僕を見つめた。このまま戦っても勝ち目はない。みんなで全力で逃げてもすぐに捕まるだろう。僕が禁書と逃げるのは良い案のように思えた。
「でも、誰と変わろう?ヒルもステラさんも近すぎるよね?」
エレンさんをこんな戦闘のまっただ中に連れて来るのはさすがに気が引けるし、他に名前と顔を知ってる人っていたかな。
「街に入る前話してた奴がいるだろ、カルビンだったか?そいつでいい。サエが耐えてる今のうちだ、行け!」
タロトに促されて僕は慌ててスフ、エクス、チェンでカルビンと入れ替わった。
僕は大きなテーブルの前に座っていた。10人ぐらい座れそうな大きさだったが、僕の他に座っていたのは1人だけだった。カメ女だ。食事中だったようで、テーブルには食べかけの料理が2人分並んでいた。カメ女は急に僕が現れたことに驚いて、食べかけの芋を落とした。
「ひぇっ!急に絶望が現れた!カルビン様はどこへ?」
「急に驚かせてごめん。ゴーヨク邸にいたんだけど、カルビンと場所を交替させてもらったんだ。魔人がこの禁書を狙ってて、渡さないように逃げようとしたんだけど、他に交替する人の当てがなくて。」
カメ女は僕の持ってる禁書を見て、僕の顔を不安そうに見て、しばらく考えていたが、おずおずと口を開いた。
「ということはカルビン様は今、魔人と戦っているのでしょうか?ナイフと、フォークで?」
まぁ、食事中に剣は持ってなかっただろうしそうなるのかな。僕が曖昧にうなずくと、カメ女は眉をつり上げて、震える手で僕を指さした。
「それで、絶望は何をしているのですか?カルビン様を危険な場所に送り出して、自分は戻らないのですか?禁書などここに置いていけばいいでしょう!」
カメ女の声は震えていたが、僕は叱られているのだと思って、小さくなった。思わず言い訳が口をついた。
「僕がいても戦力にならないし、それなら禁書を守っていたほうが役に立つかなって・・・」
「絶望、あなたは卑怯です!カルビン様は自分以外の生物を全て見下していて、弱者にとことん厳しい暴君ですが、仲間が戦っている戦場から自分だけ逃げ出すような卑怯なことはしませんよ!」
カメ女にまっすぐに見据えられて、僕は視線をそらした。サエに頼られたいなんて思っておきながら、僕は戦場から逃げる臆病もので、カメ女の言う通り卑怯ものだったのだ。
僕は拳を握りしめた。胃の上あたりが絞られるような息苦しさを感じたが、声を振り絞った。
「カメ女の言う通りだ。役に立たないかも知れないけど、戻るよ。それでその、カルビンは強いから、戦場でも大丈夫だと思うんだ。タロトは元副魔王だけど、まだ転生したてで子供だから、ここでかくまってくれないかな?同じマハーフ人だから仲良くしてあげてよ。」
僕は何とか無理して微笑んだ。カメ女は頷いてカルビンの剣を僕に手渡した。
「私のことはミメルと呼んでください。」
「じゃあ、僕のこともレイリって呼んでよ。」
僕は剣を受け取った。禁書を机に置いてスフエクを唱えようとしたが、ふと禁書から連れて行けと話しかけられた気がして、ダメだと頭では思いながら、服の中に隠して持って行くことにした。
「ありがとう、ミメル。頑張ってみるよ。」
「はい。カルビン様によろしく。あと、聞き間違いだったら嬉しいのですけど、タロトさんは元副魔王っていいました?もしかしてレグナルト?できれば別の人が・・」
「スフ、エクス、チェン、タロト!」




