64 vs エンビス
女の魔人はケーキから出てきた僕に驚き、ヒョロ魔人が負けたことにビックリして、頭が真っ白になったように呆然としていたが、ヒョロ魔人が消える間際にエンビス、と名前を呼ばれたことでハッと我を取り戻したようだった。僕は少しでも距離を取ろうと思ってヒルの方に逃げ出した。
ヒルの近くではステラさんが力を使い果たしたのか、ヒザからくずおれた。ヒルが支えると少し嬉しそうにしたが、いつもの高いテンションでは無かった。小さな声で何かヒルに話しかけていた。
「レイリくん、ステラさんのカバンを取ってくれたまえ!回復薬が入ってるそうだ!」
ヒルが僕に向かって叫んだ。ヒョロ魔人の攻撃で飛ばされたステラさんのカバンは、僕とヒル達の中間に落ちていた。ヒルはステラさんを支えているので、僕が拾って届ける方がよさそうだった。タロトの方が足は速いが、僕の方が近かった。タロトの方が近かったとしても、たどり着けなかったかも知れない。タロトはそれほど疲れていた。
「レイリにカバンを渡してはならんと、アチキは思うでアリンス。」
エンビスがボソッとつぶやいた。すると次の瞬間、ヒルがステラさんを投げ捨て、僕に向かって突進してきた。捨てられたステラさんはビタンと床に体を打ちつけた。痛そうだった。ヒルは僕に組み付いて、カバンを拾うのを阻止してきた。
「ヒル!何してるの?!」
いつものヒルらしくなかった。操られているのだろうか。そういえば街でエンビスに会った時も、声をかけられた男が大人しく従っていた。何かのスキルか魔法を使ったのだと思う。でも、なぜわざわざヒルを操って僕の邪魔をしたのだろうか?僕を操った方が確実じゃない?僕はナシテ神の教えてくれたことを思い出した。エンビスの魔法はメテケテと同じ発動条件と言っていた。触れてないと駄目なのだろうか?そう思ったが、エンビスは触れられるような距離ではなかった。
タロトが近づいてきてヒルの後ろにしがみつき、僕から引き剥がそうとした。
「レイリ、あいつの相手は頼んだ。あの変な喋り方はまず間違いなく魔法のカムフラージュだ。喋り始めたら用心しろよ。」
そんな事を言われても、用心の仕方が分からなかった。僕はタロトにヒルを任せてエンビスを観察した。エンビスはさっきまでと同じように座っていた。戦闘が始まったのになぜまだ座ってるのだろう?攻撃が来ないと思っているのだろうか?僕なら不安で座っていられないけど。
そこでふと、エンビスの髪が床にまで届いているのに気づいた。もしかして髪が床下を這っていて、床の隙間からところどころ出てるとか?髪の毛も触ってる判定になるなら、たまたま髪を踏んでいたヒルを操ったのかも知れない。髪の毛を部屋中に張り巡らせているから、立ったり動いたり出来ないのかも。そう考えついてよく見ると、床の隙間から髪の先っぽいものを見つけた。僕はわざと髪の毛を踏んで、エンビスに手を向け、魔法を使おうとしている風の演技をした。エンビスが口の端で笑い、静かに口を開いた。
「アチキは、それは無駄と思うでアリン…」
「メテ、ケテヨ、ナシテ!」
僕の方が少し早かった!メテケテも髪の毛で触ってる判定になるのか不安だったが、うまくいったようだ。時間が止まり、頭に直接男の人の声が聞こえてきた。ん?ナシテ神じゃない?




