62 ラストス戦再開
気を失ったタロトを起こそうとして、ヒルが声をかけていた。ステラさんはバリアでヒョロ魔人の攻撃を受け続けている。バリアにヒビが入り、ステラさんは苦しそうだ。オロオロして見ていると、タロトが目を覚ました!良かった!僕はタロトが無事だった事にホッとしたが、まだヒョロ魔人の猛攻は続いているので、気は抜けない。タロトは頭を左右に振って、意識をはっきりさせようとしているようだ。
「タロトが目を覚ましたよ!ステラさん、もう少しだけ頑張って!」
ヒルがステラさんに声を掛けると、ステラさんのバリアのヒビがみるみる修復されていった。
「任せてくださいな、ヒルデガルド様♪」
ステラさんは気合いが入ったようで声にも元気が戻っている。ヒョロ魔人がその様子に驚いたように攻撃を一時中断した。
「まだ魔力を隠してましたか、こんなに骨のあるニンゲンは久しぶりです。素晴らしい!では私も本気で相手してあげましょう。実は私も短縮形が使えるのですよ。重詠唱で短縮形という超高難度技術で滅ぼしてさしあげます。光栄に思いなさい。」
ヒョロ魔人が楽しそうに笑った。ステラさんの顔から血の気が引く。短縮形を使われると倍のスピードで攻撃が来てしまう。今ですら反撃の機会が無いのに、絶望的だ!
攻撃が再開した。ステラさんはバリアに魔力を注ぎながらタロトを振り返る。
「タロト!避けれる?!」
「悪い、まだ無理だ!どのぐらいもつ?!」
「持って一分ぐらいよ!」
「ヒル!一か八か、ラン、フード、ギャブルだ!魔仙桃か万能薬を出してくれ!」
タロトがヒルに無茶振りをした。魔仙桃は攻撃力を爆上げるチートアイテムだ。ステラさんに食べさせればヒョロ魔人に勝てるだろう。万能薬はタロトが食べれば回復して、また攻撃を回避出来るということかな。ラン、フード、ギャブルはヒルが食べたことある食材からランダムに一つ出せる魔法だが、万能薬は食べたことになってるだろうか?苦すぎて吐き出してたような・・・
ヒルはこの戦いで全く役に立っていなかったので(僕もだけど)、役割が出来たことで気合いが入ったようだった。
「任せてよ。ハァァァァ!!」
気合いを入れながら手で桃の形を作っている。ダサいし、時間が無いので早くして頂きたい。
「ラン、フード、ギャブル!!」
・・・出てきたのはピンクのキノコだった。ヒルが食べてお腹を壊した食材だ。いらんわ!とヒルが投げ捨てる。ステラさんもがっかりだった。タロトは驚いたように目を見開き、納得したようにうなずいて、希望が見えたとばかりにニヤリと笑った。
「ヒル、でかした!それで良い。ステラ!俺様がもう少し回復するまで耐えてくれ!あと10秒でいい!」
「了解!!」
ステラさんがバリアに注ぐ魔力を増やし、ヒビを修復する。かなり疲労しているのが見て取れた。と、タロトが僕の隠れているケーキに向かって叫ぶ。
「レイリ!!気を引け!!」
え?僕?予想外だったが、考えてる暇は無い。タロトを信じよう!気を引くってどうしようか。ケーキから飛び出すぐらいで良いのかな?もう少し驚かした方が良い?じゃあ、
「スバラ、シキ、ナシテ」
時間が止まって頭にナシテ神の声が聞こえてきた。
「やっぱりレイリね。ちょうど良かったわ、もうすぐ私の魔法は使えなくなりそうだから、それを伝えたかったのよ。」
レイリと名前を呼ばれたのは初めてで、それにも驚いたが、使えなくなるという方が気になった。
「え?使えないって何故ですか?僕が無茶な量を使いすぎたから?」
「あはは、確かにあんたの注文は異常だったけど、それが原因じゃないわ。天界にもいろいろ事情があるのよ。で、何人分の声が必要なの?」
僕はビックリして忘れかけていた目的を思い出した。魔人を驚かして気を引かないと。闘技場では魔力を100兆使って会場が大変なことになったので、今回は抑えようと思う。
「じゃあ、100人分。魔力10000でお願いします。」
「あら、あんたにしては大人しいわね。とはいえ、普通の人間なら10000は無理だけど。はい、出来たわよ。ちなみに元に戻らなくていいの?」
そうだった。ナシテ神のステータス強化魔法は指定しないと永続するんだ。ずっと100人分の声になったら近所迷惑どころじゃない。
「一回で元に戻るようにして下さい。」
「でしょうね。ちなみにあんたの近くにいる女の魔人だけど、使う魔法はメテケテと同じ発動条件よ。」
僕はまたビックリした。今まで相手の生命力を聞いても鑑定系魔法の担当だと教えてくれなかったのに、どういう風の吹き回しだろうか。
「教えちゃって大丈夫なんですか?」
「もちろん駄目よ。ま、このくらいなら全財産没収ぐらいでしょ。もう、私には財産なんて関係ないから、お得意様にサービスよ。」
ナシテ神の声からは諦めと、僕に対する慈悲を感じた。何があったのかは気になるが、今は魔人達との戦いに集中しないといけない。
時が、動き出した。




