60 ステラさん達 vs ラストス
サエを追ってムキムキ魔人が外に出ていき、残されたヒョロ魔人は、倒れて床に伸びてるサロムを足先でつついて起こした。
「サロム、起きなさい。あなたはジークス様のところに行くのです。私はこの年のいった女を相手します。金髪の男とマハーフの子供はエンビスに任せますよ。」
ヒョロ魔人に従ってサロムが立ち上がり、フラフラと歩き出した。蹴られてはたき落とされたショックか、変身が解けていた。
「アチキは見てるでありんす。3人ともラストスに任せるでありんす。」
女の魔人は未だに興味がなさそうにケーキを食べ続けている。ケーキが減って見つかるのが怖いので、そろそろ飽きて欲しい。
ここでステラさんがヒョロ魔人の言葉に引っ掛かって口をはさんできた。
「ちょっとあんた、年のいった女って何かしら?魔人って言葉を知らないの?私のような女性は麗しいとか艶やかとか表現するのよ!」
「言葉が気に食わなかったのですか?あー、年は"いく"じゃなくて"寄る"ですかね。年寄りの相手は私がしてあげましょう。さぁおばあさん、かかって来なさい。」
ヒョロ魔人が半笑いでさらに煽り、ステラさんの怒りが爆発した。
「あんたはちょっと痛い目に会う必要がありそうね!『エルドラ』!!」
ステラさんが短い呪文を唱えると、空間に炎が現れてヒョロ魔人に襲いかかった。今まで聞いた魔法の呪文は全部3つか4つの単語に別れていたので、なんだかまどろっこしいと思っていたが、短いのもあるんだと感心した。さすが自称最強、いろんな魔法を知ってるんだろうな。だが、飛んでいった炎はヒョロ魔人に当たる前にかき消された。余裕の笑みを浮かべて魔人が話し出す。
「短縮形が使えるとは、上々ですね。発音の正確さが求められるので、最近は魔人でも使うものが減ってますからね。魔力量も人間とは思えない。さぞかし自信があるでしょう。だが、相手が悪い!!『エル、タドラ、フレイズ』!」
ヒョロ魔人が唱えた呪文はヒルが最初に試した炎系の基礎魔法だった。ヒルの時は小さい炎の玉が一つ飛んでいったはずだ。だが何故か今回は大きめの炎が2つ出てきて、タロトとヒルに向かって飛んでいった。タロトはチッと悪態をついてよけ、ヒルに向かった方はステラさんが別の魔法を出して相殺した。ステラさんとタロトの顔色が明らかに悪くなっていた。
「その顔は、思い知ったようですね。重詠唱といって、口の中で呪文を反響させて複数同時発動する高等技術です。常に2人同時に攻撃し続けますよ?いつまで対応出来ますかね?私も魔力量を解放しましたので見えてるでしょう?この圧倒的な魔力量差で、まだ勝てると思いますか?」
ヒョロ魔人はそう言ってクックッと笑った。追い詰めて楽しんでいるようだ。ステラさんの顔にさっきまでの余裕はなく、ピンチなのが伝わってくる。助けにでたほうが良いだろうか?足手まといになるだけだろうか?見ているだけなのも、もどかしくて苦しいが、戦える自信もないし、出ていく勇気も出なかった。
ヒョロ魔人は続けて次々と魔法を放った。ステラさんが短縮形の呪文で対応するが、2発同時には対応できない。ヒルに向かう魔法を処理し、ステラさんとタロトに向かってくるものは何とか避けてしのいでいた。防御と回避で精一杯で、反撃の隙がない。このままだと魔力量で勝さる魔人にいつか負けてしまうと思われた。
ヒルが反撃しようと魔法を放ち、魔人に当たった!一瞬喜んだが、魔人はケロリとしている。ヒルの魔法ではダメージが低すぎて、避けるまでも無いようだった。
疲れてきたのかステラさんの反応が遅れ、肩に掛けていたカバンの紐に当たって千切れた。カバンが飛んでいき、中からヒルニャンが飛び出す。連れてきてたの?と驚いた。魔人は楽しそうに空中のヒルニャンとヒルに一発ずつ魔法を放った。ステラさんは一度に一つしか対応出来ない。ヒルか、ヒルニャンのどちらかは魔法に当たってしまう!
「ヒルニャン!」
ステラさんが叫んだのと同時に、
「メルヒル!!」
タロトが呪文とも名前とも分からない言葉を叫び、ヒルニャンを抱きしめ、飛んできた魔法をかわした!そのまま体でヒルニャンをかばって勢いよく壁にぶつかる!頭を打ったのかタロトはすぐに起き上がらなかった。
タロトがヒルニャンをかばうために飛んだのを見てステラさんはすぐにヒルに向かう魔法を対処し、ヒルは無事だった。タロトが倒れ込んだのを見てヒルが駆け寄る。
「タロト!」
声をかけるが、気を失っているようで返事がない。魔人がヒルとタロトを狙って魔法を放った。ステラさんがバリアのような魔法を出し、ヒル達に向かってきた魔法を防いだ。衝撃を受けてステラさんの顔が歪む。相殺するより負担が大きいのかも知れない。
気を失ったタロトと抱きかかえるヒルをバリアで守るステラさん。続けて撃たれる魔法にバリアにヒビが入る。長くは持たなさそうだ。僕はいったいどうすればいいんだろう?!情けないけど、この時まだ僕は動けずにいたんだ。




