6 魔王軍の幹部と話すのは無理ゲーです
魔族の男は酒場にズカズカと入ってきた。客の顔を見回しながら、何かを探しているようだ。街に入る前に男の子から聞いた、転生者を探すパトロールに違いない。僕は見つかりませんようにと心の中で祈りながら下を向いていた。
「そこの3人、転生者か。」
あっさり見つかった。心臓が口から出そうになるほど驚いた。なんで?ネックレスが効いてなくて、魔力が漏れてるのだろうか?あの子はやっぱり騙したんだ、恨んでやる!
だが魔族の男はもっと絶望的なことを教えてくれた。
「俺は相手のスキルを見ると奪えるんだ。この前見つけた転生者が鑑定のスキル持ちでな、これは便利だぜ。」
やばい。鑑定スキル持ちなら嘘をついてもすぐバレる。
「どれ、転生者はとんでもないスキル持ちが多いからな。鑑定スキルの前は、時を止めるスキルに何でも切れるスキルときた。今度の獲物はどんなスキルか楽しみだぜ。」
無理だ。チート能力をいくつも持ってるなんて、勝つどころか逃げられる気もしない。
「この前の試験で副魔王に昇格したからな、次はいよいよ魔王だぜ。」
副魔王とかいう役職を初めて聞いたが、絶望しか感じない。・・・いや、試験って何?そんなルール整ってる組織なの、魔王軍。この魔人が魔王になったら今の魔王はどうなるんだろう、引退した魔王のための役職があるのかな。駄目だ、どうでもいいことしか考えられない。
魔人は僕らをじっくり鑑定した。その間、僕たちは緊張で微動だにできなかった。
「そっちの男はスキルがチートイケメンとなってるが、なんだそれは?」
「めちゃくちゃ格好いいということだ。」
ヒルが応える。説明がダサい。
「なんだそれは、いらん。女のスキルは…レイリの居場所が分かる。え?…いらん。もうひとりの男はスキルがないぞ?ステータスも激弱だ。魔力の欄だけ謎の文字が書いてあってわからんが、コイツからほとんど魔力は感じられん。名前がレイリってことは、女はコイツの場所が知りたいのか?何の得があるんだ。コイツ達、意味が分からん。異世界をナメてるのか?」
僕の魔力無限はスキルではないらしい。ステータスの魔力欄が謎の文字なのは、無限を表す記号だろうか。魔力を感じないってことはネックレスの効果はあったらしい。少年よ、疑ってごめん。
3人とも期待外れに弱いことがわかって、魔人はテンションがだだ下がりだった。捕まえる気もなくなったらしく、僕らを放置して帰ろうとしていた。
まさかゴミスキルのおかげで助かるとは。複雑な気持ちだが助かったようで安心していると、酒場に居た騎士風の男性が立ち上がった。
「魔人め!覚悟!」