59 戦闘開始
僕に化けたサロムがサエに近づいて行くのを、僕はケーキの中からハラハラして見ていた。サロムが背中にナイフを隠し持っているのが見える。サエを傷つけようとしているんだと気付き、教えなきゃと焦る。情けない事にケーキから飛び出すことも、声を出すことも出来なかった。焦るだけで、行動にうつすだけの勇気が出なかったんだ。
こっちの世界に来てから今まで何度かサエのピンチを助けられたけど、いつも運が良かっただけだ。僕はもう駄目だと思ってからしか動けない意気地なしだった。サロムがサエに手が届く距離まで近づくのを、何もできずに見ているだけだった。
「駄目だ、逃げて・・・」
小さい声しか出ない。とてもサエには届かない。サロムがナイフを背中から・・・
ボゴゥッ!!!
サエが躊躇なく僕の姿をしたサロムを蹴り飛ばした。吹っ飛んでムキムキ魔人にはたき落とされる。蹴られたのは僕じゃ無いけど、リアルな恐怖を感じた。
「化けるなら憶えときなさい!レイリはそんな格好いいセリフは言わないのよ!!」
サエがキメ顔で叫んだ。サロムが僕に化けて『僕に任せて先に逃げて!』と言ったからだろう。まぁ、確かに僕が言わなさそうなセリフ第三位ぐらいには入ると思う。第一位?『このスリルがたまらない』とかかな?
サエに遠回しに格好悪いとディスられた気もするけど、とにかくサエが無事で良かった。サロムがニセモノと気づいてたってことは、サエのスキルで僕がケーキの中にいるのも気づいているだろう。でも危機が去ったわけではない。ここには魔人が3人もいるのだ。サエ1人じゃ勝ち目がない!
と思っていたら後ろからタロトが息を切らしてやってきた。
「サエ、ハァハァ、速すぎだ、バカ。」
ただでさえ子どもの姿で剣も魔法も使えないのに、体力まで使い切っている!足手まといとしか思えない!なんでわざわざ付いてきたんだよ?!と思っていたら、さらに疲れたヒルもやってきた。
「サエさん、ハァハァ、ちょっとこの小屋で休憩しよう。」
休憩出来ないよ?!魔人めっちゃいるし!駄目だ、タロトとヒルと僕を守りながら魔人3人と戦うのは無理ゲーすぎる!と絶望したが、ヒルのとなりにステラさんがいるのに気づいた。自称最強のステラさんなら何とかしてくれるだろうか?
「ヒルデガルド様、ここはサエに任せてあちらの木陰でお休みにしません?お茶を淹れますわ。」
ダメそうだった。
そんなやり取りを大人しく魔人たちは待ってくれていたが、ついにムキムキ魔人が待ちきれなくなってサエに飛びかかった。
「お前が一番マシそうだな!!」
と振りかぶった腕をサエに叩きつける!サエは壁を突き破って外まで吹っ飛んでいった!タロト、ヒル、ステラさんと、3人の魔人たちが睨みあい、場に緊張感が満ちる。僕はケーキの中で呆然としていた。
「そんなに全力で殴ったら一撃で滅びるでしょう?この場所をどうやって知ったのか問い詰めないといけないのに、まったくあなたは・・・」
ヒョロ魔人が呆れたようにムキムキ魔人を責めた。
「いや、全く手応えが無かった。あの女、自分で跳んで衝撃を抑えやがった。ダメージゼロだな。五剣聖クラスが出張ってきたのか?なんでココが分かったのか知らねぇが、楽しくなりそうだぜ。ちょっと相手して来るわ。」
そう言ってムキムキ魔人はサエが突き破った壁から外にでていき、僕の隠れている場所からは見えなくなってしまった!




