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51 ケーキの中から

覗いている穴は小さくて、様子がよく見えなかったから、穴に顔を近づけた。甘い匂いがするし、壁が柔らかい。まるでスポンジケーキの中にいるみたいだ。


顔を近づけるとさっきより外の様子がよく見えた。僕が隠れている狭い場所のすぐそばに、女の魔人が1人いる。なんとなく見覚えがあるが、魔人に知り合いはいないので勘違いだろう。


少し離れたところにムキムキの魔人と背が高くてヒョロっとした男の魔人がいて、3人全員が、もう1人の魔人を見て話をしていた。なんとなくこの最後の魔人が4人の中のボスかな、と思う。迫力があるし、態度が偉そうだ。


サエと入れ替わる予定になっていたが、この状況で呪文を唱えると、僕が隠れている場所が女の魔人にバレそうだ。魔人4人に待ち構えられていたら、さすがにサエでも何ともならないと思う。少し様子を見て、逃げられそうなタイミングで交代しよう。ヒルも、その間にサエに状況を説明してくれるだろう、と期待する。


僕はチャンスをうかがいながら、魔人達の話に耳を澄ませた。聞こえにくいが、集中すると何とか聞き取れる。


「そろそろゴーヨクの屋敷に向かう昼時だが、あいつはまだ帰ってこないのか?」


ボス魔人がイライラしたように3人の魔人を睨みつけた。迫力に3人の魔人がたじろぐ。ただならぬ雰囲気に圧倒されて、隠れている僕も冷や汗が出た。帰ってこないとは、まだもう1人増えるのだろうか?逃げるのがさらに困難になった気がして、息苦しくなった。


「リザードマンが2匹ともやられましたからね、怒られるのが怖くて帰って来れないのではないですか?」


ヒョロ魔人が代表して意見を述べた。他の2人の魔人はこわごわ様子を伺っている。ムキムキ魔人も見るからに強そうだが、ボス魔人に歯向かう気は無いようで、おとなしくボス魔人の反応を待っていた。


「ちっ、俺はエンビスの兵隊を連れて先にゴーヨク邸に行く。禁書と神化の腕輪を奪っておくから、サロムの野郎が帰ってきたらすぐに連れてこい!」


そう言ってボス魔人はバタンと大きな音を立ててドアを閉め、出ていった。残された3人の魔人が少しホッとする。


「ジークスの旦那、一段と機嫌が悪かったな。」


ムキムキ魔人がやれやれと肩を回しながらため息をついた。ボス魔人の名前はジークスらしい。


「誰かさんが、宝石ケーキを盗み出すとか言って、計画を一日延期させたからじゃあ無いですか?とんだとばっちりです!」


ヒョロ魔人が女の魔人を横目で睨む。


「あちきはずっと人間の振りをして情報収集してたでありんす。少しぐらいご褒美がないとやってられんでありんすよ!」


女の魔人がフンっと鼻を鳴らして言い返した。この3人は対等なようで、ジークスがいた時のような会話の緊張感はない。宝石ケーキとはウェスティン夫人が準備したものだろう。この女の魔人が犯人だったのか。でも何のために?

そういえば、人間のふりをして、というのと変な語尾で思い出したけど、この魔人と街で会ったことがある。ヒルに目もくれず、僕の魔力漏れ防止のネックレスに興味を持ってた女の人だ。もしかして宝飾品が好きなのかな?まぁいいか。サロムって魔人が帰ってきたらゴーヨク邸に行くらしいから、その時にサエと交代して、逃げてもらおう。


それにしても、サロムもゴーヨクも聞いたことある名前だな。禁書ってのもタロトが恐ろしいこと言ってた気がするなぁ。僕はだんだん深く考えるのが怖くなってきたが、サロムが来るまで、と思って聞き耳を立て続けた。

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