5 魔法を使うのは無理ゲーです。
ポンコツイケメンは自分のことをヒルデガルドだと名乗った。
「え?一緒に隕石に巻き込まれたんだし日本人でしょ?」
「異世界に来たんだから名前を変えたいのさ。イケメンにふさわしい名前だろ?」
「ふーん、長くて不便ね。じゃあヒルって呼ぶね。」
ヒルはまぁいいけど、と微妙な表情をした。せっかく格好いい名前をつけたのに、略されて台無しになった気がしたのだろう。サエはそんなのお構いなしだった。僕もヒルと呼ぶことにした。
「支払いが出来ないって言ってたけど、ヒルは転生した時にお金もらってないの?」
「イケメンに相応しい衣装を買ったら全部無くなったよ。」
悪びれもなくヒルは言ってのけた。サエは仕方ないなぁといった感じで首を振った。
「お金は大事に使わなきゃ。」
サエもあっさり金貨手放したけどね!まぁ僕のためなので、文句は言えない。
「服に全財産使って無一文なんて、かなりカッコ悪い状況だと思うけど、ヒルを見てるとまったく責める気が起きないわ。チート能力の効果かな?」
僕は一文無しのポンコツが仲間に加わって泣きそうだった。異世界生活を軽く見てるとしか思えない二人と行動するのは不安しかないが、一人はもっとやっていける気がしないので仕方ない。あきらめてこの二人と頑張ろう・・・覚悟を決めていると、ヒルが僕達の名前とチート能力を聞いて来た。
「レイリ君はいいとして、サエさんは何でそんな役に立たない能力にしたんだい?異世界生活をナメてるんじゃないか?」
まぁ、僕もそう思うけど、ヒルには言われたくない。
「まぁなんとかなるわよ。それより今は魔法の事が知りたいわ、どうやったら使えるんだろう?ヒルは何か情報得られた?」
「さっき僕を囲んでた女の人達の中に、この街最強の魔女だって人がいたから聞いてくるよ。」
ヒルは席を立って女の人に話しかけ、その人は今から用事があって直接は教えられないからと、分厚い本をヒルに渡した。大事な本だから絶対返してね、どこどこに住んでるから、訪ねてきて。ついでにお茶していってよ、と返してもらう口実でまた会いたいオーラを、惜しげもなく出していた。
ヒルに会いたいのはいいとして、魔法の本とか素人に貸していいのだろうか?スゴく危険な気がしたが、サエとヒルは喜んで読みはじめた。
「火を出す魔法が書いてるよ。エル、タドラ、フレイズ!」
「え!サエ!何してるの?!本当に火が出たらどうするの?火事になるからダメだよ!!」
実際は何も出なかったのでよかった。僕がほっとしてるとヒルは水を出す魔法を唱え始めた。
「オル、テルナ、フラッタ!」
「ヒルもやめて!水ならいいわけじゃないから!洪水になったらどうするんだよ?!」
サエもヒルも反省した様子はみじんも無かった。なぜ魔法が使えないのかと悩んでいる。
「私達じゃ出来ないのかな?魔力無限のレイリなら出来るかも、何かやってみてよ。」
サエが魔法書を僕に渡した。
「僕は使わないよ!どんな威力なのかもわからないし、間違ったら爆発するかも知れないし、うまく行っても副作用とかがあるかも。」
「そうか、じゃあまず私が出来るようになって安全なことを確かめるよ!」
とサエは無理強いしなかったが、ヒルはせっかく魔力無限なのに勿体ない、と諦めきれない様子だった。
「これなんか、人には影響が無いと書いてあるし安全なんじゃないかい?触れている魔物に、使用した魔力量に応じたダメージを与える。メテ、ケテヨ、ナシテだってさ。」
「魔物に触れるなんて恐ろしいこと出来ないよ。」
「回復魔法はどうだい?危険は無いだろ?」
「間違うと危険なのはきっと回復魔法も一緒だよ。ニトログリセリンは心臓の薬に使えるけど、元は爆薬だもん。」
その時、酒場が静まりかえった。みんな入口の方を見ている。僕も入口を見て固まった。頭に羊のような角が生えた赤黒い大きな男が立っていた。すぐにわかる。魔族だ。