33 讃美歌を作る
クラーケンが消し飛んで、街はお祭り騒ぎになった。というか本当に今晩お祭りをするらしい!船が無事な漁師達が「6の鐘までに帰ってくるわ!」と出港していき、市長っぽい人が「酒と料理をかき集めろ!」と号令を掛けていた。めっちゃ浮かれてる。まぁ1ヶ月以上クラーケンに苦しめられてたから仕方ないか。
僕はサエとヒルに讃美歌を作る必要があることを話し、アレンさんに讃美歌を歌ってくれる人を集めてほしいとお願いした。
「作曲はハマったことあるけど讃美歌は作ったことないなぁ。とりあえず協会でピアノ借りよっか。」
作曲できるの?サエはホントに何でも出来るな。でも助かった。
「僕は詩を書いてたからね、作詞は任せてくれよ。」
ヒルが自信満々に宣言した。ヒルは不安しかないけど、まぁ僕も自信があるわけじゃないし手伝ってもらうことにした。
「僕も考えるから、曲を作りやすい方をサエに選んでもらおうよ。7の鐘でお祭りスタートって言ってたし、あと4時間ぐらいだね。歌詞は1時間で作ろう。」
というわけで早速考え始めたが、思ってたより難しく、書き終わったときはぐったりしていた。ヒルも書き上げたようだ。まず僕の歌詞をヒルとサエが確認する。
「あー、讃美歌って感じだねー。レイリらしいというか、マジメすぎるというか・・・」
サエは歯切れが悪い。なんか不満がありそうな言い方だね?
「うん、普通だね。」
ヒルは一言だけ、普通でつまらない、というニュアンスでそう言った。え、普通でいいでしょ?
「ヒルのも見せてよ。」
僕はヒルが詩を書いてた紙を受け取った。ヒルは自信満々で渡してきた。
『ナシテ赦して俺の罪!』
呼び捨て?馴れ馴れしいな、大丈夫かな。
『マジで戻して、あの夏に!』
夏に何かあったの?てか、韻を踏もうとしてる?ラップじゃなくて讃美歌を作って欲しいんだけど・・・
『俺はお前をマジ、リスペクト!』
呼び捨てどころかお前って言い出した・・・
『だからお前に舞、プレゼント!(踊る)』
いや、踊るな。
歌詞はまだ続いていたが、後も似たような感じで、賛美歌とはほど遠かった。駄目だ、意味が分からない。ヒルに任せなくてよかった。
「よし、ヒルの歌詞でいこう。」
「サエ?!踊るとかどうする気?」
「振り付けも出来るから大丈夫!」
多才すぎた。
「じゃあ曲つけてるから、踊れる人探して来てね!」
僕とヒルが協会から出ると、カルビンがカメ女を連れて気まずそうに近づいてきた。
「その、助けてもらって悪かったな・・・」
「そんなことより、君は踊れるかい?」
ヒルが無茶振りをした。
「あ?まぁ剣舞ぐらいなら。」
「踊り手も確保できたね。」
ヒルは満足そうだったが、ラップと剣舞?讃美歌はどこへ?
そして結局サエの作曲はラップだった。やっぱりそうなるよね!その後、聖歌隊にラップを教え込み、カルビンの剣舞を振り付け、なんとも意味不明な讃美歌が完成した。もう、僕にはどうにもできない。ナシテ神が怒り出さないことを祈るだけだ・・・
祭りは盛況でみんな笑顔だった。サエとヒルのラップも珍しかったようで、すごい人気が出た。何度も「もう一回」とせがまれて最終的にカルビンが疲労で倒れて終わった。
僕もお祭りを楽しんだ。人ごみは予想外の事が起こりやすくて怖いから、ちょっと離れたところから眺めてただけだったが、みんなが楽しそうにしているのは、それだけで温かい気持ちになった。クラーケンを倒せてよかったと思った。勇気を出して挑んだサエに心のなかで感謝した。




