32 サエの回想
〜サエの回想〜
私は昔から何かに夢中になると、他のことが気にならなくなってしまうタイプだ。縄跳びにハマった時なんて、楽しくてついつい真夜中まで練習してしまって、ついには近所から苦情が来たこともあった。
小学校低学年の頃、私はヒーローアニメにどっぷりハマった。主人公がとにかくカッコよくて、私も彼みたいになりたくて仕方なかった。だから、ケンカを止めたり、困っている友達を助けたりして、自分なりにヒーローを目指していた。低学年のうちは、そんな「正義の味方」っぽい行動が受け入れられて、ちょっと人気者になれて嬉しかった。
でも、学年が上がるにつれて、周りの反応が少しずつ変わってきた。ケンカを止めようとしても「ただの遊びだから首を突っ込まないで」と言われたり、友達に勉強を教えようとして「偉そう」と思われたり。そんな風に空気が微妙になることが増えても、私は「これが正しい」と思うと、やっぱり止まらなくて、気づいたらまた同じことを繰り返していた。
5年生の時、タイからの転校生のチャイポンが来た。言葉のせいでからかわれているのを見て、すぐに止めたが、その後「良い子ぶってる」なんて言われて、急にみんなから無視されるようになった。それでも、私は自分のやったことは間違っていないって信じていた。
ある時、チャイポンのお金がなくなった。クラスのやんちゃな男子タクヤが「サエが盗ったんじゃね?」と言い出した。思いっきり否定したが、逆に怪しく思われたようだった。「じゃあみんなに聞いてみようぜ、サエじゃないと思う人〜?」とタクヤが言って見回した。みんな気まずそうに下を向いた。私はすごく悔しかった。今まで正義の味方を目指していたのに、悪いことをする子だって思われてるんだ!と思って涙が出てきた。そんな中でおずおずと手を挙げたのがレイリだった。
正直に言ってびっくりした!それまでほとんど話したことは無かったし、ビビリで有名だったので、こんな場面で手を挙げるとは思わなかったからだ。それまでの思い出といえば、調理実習で果物ナイフでカボチャを切ってるのを見て、「なんで包丁使わないの?」と訊いたら「怖いから。包丁使えるの?すごいね!」と言われて「ふふん、豆腐とか手の上にのせて切っちゃうよ」と調子に乗ってみたら「マジで?!勇者だね!」と大げさに驚かれたことぐらいだった。
タクヤもレイリが手を挙げたのが意外だったのか、「ビビリのレイリが何調子乗ってんだよ、サエのこと好きなのか?」とからんだ。レイリは冷静に「サエの行動を見てると正義の味方としか思えないよ。お金を盗るのはサエらしくない。」と言った。私はこの言葉が本当に嬉しかった。今でも思い出してニヤけることがある。このときから私は、今後何があってもレイリの味方であることを心に誓った。
ちなみにこのあとタクヤが「じゃあ俺は悪だってのか!」とレイリに殴りかかったので、思わずボコボコにして後で先生にめっちゃ怒られた。レイリには「正義の味方も大変だね」と言われた。そこは『ありがとう』でいいんじゃないかな?!
〜サエ、現在〜
カルビンが捕まったのを見て思わず助けなきゃと飛び出してしまった。自分が捕まってたら世話ないよね。
レイリを見ると慌てて何かヒルとやりあってる。ヒルから帽子を奪って走り出した。帽子を被るとレイリが見えなくなった。レイリの走ったところが砂浜の砂を巻き上げて、こっちに向かっていることが見えなくても分かった。
ごめんね、私がいっつもレイリを危険に巻き込んじゃう。
申し訳なく思ったが、心強くもあった。レイリはビビリなんかじゃない。いつも慎重なだけで、私が困った時は助けに来てくれる。私にとってのヒーローなのだ。
レイリの頭をクラーケンの足がかすめた。帽子が飛んでレイリが見えるようになった。クラーケンがレイリを睨んで、攻撃のモーションに入った。危ない!と思ったが、ギリギリでレイリがクラーケンに触れた。
次の瞬間、チュッと音を立ててクラーケンが消滅した。あんなに大きくて怖かったのに、あっけないものだった。
ホッとして座り込んでるレイリに声をかけた。
「ありがとう。」
レイリは疲れたように私を見上げ、諦めたように首を振った。
「いいよ、カルビンを助けたのもサエらしいし。じゃあ、讃美歌作るから手伝って。」
へ?讃美歌?




