1 転生は無理ゲーです
一生のうちに、隕石に当たる確率を知っているだろうか?地球科学の教授スティーブン・A・ネルソンさんによると、160万分の1である。そう、つまり0ではない!ヘルメットも被らず外を歩いてる人たちは、怖くないのだろうか?僕は怖い!用事がなければ家から出ないし、授業で体育がある日はお母さんにお別れをしてから家を出る。
「お母さん、今までありがとう。僕のこと忘れないでね。じゃぁ、行ってくるよ!」
「あら、今日も体育?ま、頑張りなさい。」
隕石を警戒しすぎていると穴に落ちるかも知れない。僕は下にも注意を払いながら、慎重に学校に向かった。
「怜悧!こんな朝早くにどこ行くの?」
急に声をかけられてビクっとなった。話しかけてきたのは、近所に住んでる同級生のサエだ。
「どこって学校に決まってるだろ?サエはどこに行くんだよ?」
「学校って徒歩5分でつくよ?朝6時から向かってるわけ?私は朝のジョギングだよ。」
「何があるか分からないだろ?今日はテストだから遅刻出来ないのに、道路が工事中で回り道するかも知れないし、道に迷ってるおばあさんを隣町まで案内するかもしれないじゃないか。」
「ほぉ、相変わらず慎重だねぇ。2時間も回り道したら隣の県まで行けちゃうよ?」
「僕はサエみたいに体力ないから、そんなに遠くまで行けないよ。」
僕からみればサエは勇者だ。片手で自転車を運転しようとするし、歩道と車道の間の縁石の上を歩くし、手の上で豆腐を切れるらしい!想像したら気が遠くなってきた。
「それにしても今日は朝から暑いわね。レイリはヘルメット被ってて暑くないの?ちょっと被らせてよ。」
そう言いながら、サエが僕のヘルメットをサッと奪った。
「あ、ちょっと、ダメだよ!隕石が来たら危な、え?ホントに来た!」
……
気がつくと体に白い布を巻きつけた女の人がいた。金髪で、西洋風の顔立ちだ。天使?僕は天国に来てしまったのだろうか?隕石が直撃したんだもんな。僕がぼーっと見てるのに気づいて、女の人は自然な日本語で話しかけてきた。
「おめでとうございます!転生隕石に当選しました!なんと、チート能力をもって異世界に転生できまーす!」
僕が喜ぶと思って疑ってない感じだが、異世界に転生と言われたら普通は喜ぶのだろうか?当然、僕は喜ばない。
「異世界ってなんですか?怖すぎる、無理です!」
女の人は思ってた反応と違ったのか戸惑っていた。
「え…でもほら、チート能力付きだから、楽しく異世界ライフが過ごせるかもよ?剣と魔法の世界だよ?男の子はワクワクするでしょ?」
ちょっと自信をなくした感じで、弱々しくこちらをうかがいながら、小さな声でそう言った。
「しません。安全と安心の世界がいいです。てか魔法ってなんですか?何ができるんですか?」
魔法に僕が食いついたと思ったのか、ちょっとホッとした感じで女の人は説明してくれた。
「ほら、よくあるアレよ。魔力を使って火とか水とか出したりするやつ。」
「魔力?そんな謎の力、使える気がしません!火とか水とか魔法で出すんですか?コンロも水道もない感じ?無理無理無理!行きません!」
今の世界でも怖いことが多くて嫌になるのに、新しい世界だなんてとんでもない!僕はなんとかして転生をやめてもらおうと全力で拒否した。
「あれ?なんか思ってたより面倒くさい!もういいや、じゃぁチート能力は魔力無限ってことで!いってらっしゃーい!」
女の人は僕の説得を諦めたようだった。腕を一振りすると異空間ぽいものが現れ、僕を飲み込む。待って!まだ行くって決めてないし!嫌だ!異世界なんて絶対僕には無理ゲーだー!