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サラリーマン、異世界で飯を食べる  作者: ゆめのマタグラ
シーズン3︰後輩と共に
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21話 異世界のタケノコを食べに行く2


「……なんで居るんですか」


 小さな物置小屋から出てきて、気配を感じるので振り返ると――モナカが居た。

 

「実はアタシ、あの街以外で異世界ってのを見た事が無くてねー」


 いつもの帰り道。

 いつものようにビルとビルの間の路地へと入り、そして白い鍵を使って扉に入ったと思ったら――いつの間にかモナカが後ろをつけていたようだ。

 先に定時で上がったはずなのに……まさか待ち伏せていたとは。

 

「まぁアンタも――後ろ、ガラ空きだったし、次からは気を付けた方がいいよ」


 ここでは会社での後輩キャラでは無いらしい。

 しかし、《《どっち》》の意味でも一応先輩なんだけどな……。


「許可しないと一緒には通れないんじゃなかったのかよ……」


 出た場所は気持ちの良い風の吹き抜ける――竹林だった。

 あるいはよく似た植物の可能性もあるが、近くに寄って触ってみる感じは竹そのものだ。


「なんつーか……おばあちゃん家の裏山みたいな所だな。懐かしいっていうか……ここ本当に異世界か?」

「いえ。確実に異世界だと思いますよ――ほら」


 俺が水平方向に指差す先に、モナカも視線を向ける。

 そこには――空があった。

 

 どこまでも青く、蒼く、碧い――澄んだ空の色は美しく、大きな白い雲の雄大な姿がよく見える――。

 何故、上を見た訳でもないのに空が見えるかと問われれば、地面が無いからだ。


「はぁ?」

 

 竹林のすぐ外には地面が無く、よく見れば下は雲ばかり。たまに切れ目から地上のようなモノが見える。


「どうなってんだこれ!?」

「多分……ここが空を飛んでいるんでしょうね」

「えぇ!?」


 彼女はしがみつく様に竹に捕まると、そっと身を乗り出す。

 

「マジだ……ここはラピュ〇かよ」

「少しずつですが、前に進んでいるようです――向こうへ行ってみましょう」

「あっ!」


 俺は枯れた竹の葉が落ちた道なき道を進んでいく。

 すぐ後ろをモナカが着いてくる。


「で、これどこに向かってるんだよ」

「さぁ……恐らくはこの先に飯屋があるはずですけど――」


 一応、彼女に簡単に説明する。


 白い鍵は、使用者が願った場所の扉へと繋がる。

 黒い鍵は、使用者が行った事のある扉を開ける。

 

 さらにこの白い鍵に”飯屋に行きたい”と願えば、比較的安全なルートで飯屋まで辿り着ける場所に出られる。

 しかし、必ず最短距離で飯屋に辿り着ける訳では無い――巡り巡って最良なルートで飯が食べられるようになっている、はずだ。

 

「ふーん……これ使っていつも美味しいもん食ってんのかー」

「まぁ、そうですね」


 だが、時には崖登りやダンジョン攻略をやらされるので、正直本当に最良なのかは疑問が残る。

 そうやってしばらく歩いていると……分かれ道のようになっていた。


 向かって右は、より竹林の密集した歩きにくい道なき道。

 向かって左は、何かが踏み固めたような跡が残っている道だ。

 

「……これどっちだ」

「そうですね……なんとなく」


「「こっちかな」」

 

 俺が右を指差し、モナカは左を指差した。


「なんで?」

「なんとなくです」


 白い鍵には目的地を指し示す機能もあるのだが、今回は分かれ道のど真ん中を指している。

 あくまで方向しか教えてくれないのだ。

 

「では行きましょうか」

「あっ、おい!」


 一応理由が無い訳でない。

 それは、人が来そうもないこんな場所の地面が踏み固められているのは若干怪しく思うからだ。


 またしばらく道を進む。時には倒れている竹をまたがり、あるいは潜りながら進んでいく。


「アタシ、今日ヒールだから歩き難いんだけど!」

「別に帰ってもいいんですよ。無理に付き合わなくても」


 というより着いてきて欲しくない――そんな心情が伝わったのか、彼女は逆にニコニコとした表情になる。


「ははっ……こうなったら意地でも着いていくから、飯不味かったら覚えてろよ!」

「……分かりました」

 

 しばらく歩く事、十数分。

 ついに竹林を抜けると、藁葺屋根(わらぶきやね)の古民家に辿り着いた。

 ご丁寧にも扉や窓、壁まで竹で出来ている。

 扉の横には『ちんちくりん食堂』と書かれた旗が立っているのが見える。壁には『予約客優先』という札が貼ってある。

 

「ようやく着きましたね」

「ぜぇ、ぜぇ……しんどかったぁ」


 俺は少し身なりを整えてから、竹製の扉を開く――。


「――あらあらぁ。おじいさん、お客さんでふ」

「ようこそお客さん。ちんちくりん食堂へようこそでふ」


 白髪の老人のような見た目の小人――ノームの夫婦だ。

 おとぎ話に出て来そうな絹の服。赤い帽子を被っているのがおばあさん。緑色の帽子がおじいさんだ。


「予約とかしてませんけど、いいですか?」

「もちろんでふ。飛び入りのお客様なんて何年ぶりか……さぁさぁ、お席にどうぞ」

「お嬢ちゃん。ここまで来るの大変だったでしょう」

「いやもう大変っていうか……」


 おばあさんから濡れタオルを受け取り、顔や手を拭いていくモナカ。

 俺は一足先に古い木製テーブルのある席へと着く。

 彼女も遅れて俺の目の前の席へと座る――まぁ他に席は空いてはいるが、不自然だろう。

 

「今日お出しできるのは、こちらになります」


 おばあさんがお冷と板を持ってきてくれる。これにメニューが書いてあるようだ。


 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ・手作りパン      500ミネー

 ・タケノコの活け造り  700ミネー

 ・タケノコのスープ   800ミネー

 ・青竹の蒸し焼き(魚) 800ミネー

 ・青竹の蒸し焼き(肉)1000ミネー

 ・タケノコ定食    1500ミネー

 

 ◇ ◇ ◇ ◇


 

「……相場わかんねーんだけど、これどうなんだ?」

「銅貨1枚で100ミネーのはずです」


 空を飛んでいるこの島か何かは、他にも集落があるんだろうか。

 立地を考えれば客なんて早々来ないだろうし、もっと値段がしそうだが――。


「まぁ良心的な値段に越したことはないけどなー」

「そうですね……あっ、タケノコ定食お願いします」

「アタシもそれで」

「かしこまりましたぁ」


 おばあさんが板を持って厨房へと入って行くのを見送ると、モナカは店内をうろつき始めた。



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