20話 そして最終日へ
その日の夜――。
俺は手早く自宅へ戻ると、私物のノートパソコンを起動する。
表計算ソフトを立ち上げ、フリー素材の置いてあるサイトからいくつかの素材をダウンロード。さらにあるメモを見ながら文字を入力していく――そして出来上がったデータをUSBメモリーに入れる。
即席のチラシだ。これも明日の作戦の1つ。
これをコンビニで刷るのだが、1か所でやるとさすがに怪しまれそうなので、いくつかのコンビニを巡って印刷していった。
向こうでは羊皮紙を使っているように、紙はまだまだ貴重品のようだ。だからこそ、こういった手法もまたインパクトのあるプロモーションになるだろう。
次に23時間50分営業のスーパーへ行き、必要になりそうなモノを片っ端から買っていく。
七輪と炭と着火剤。バーナーとボンベ。サーキュレーターなどなど。
「そっちがなりふり構わず日本の味を持ち込むなら――こっちは、異世界の味で勝負だ」
俺は重い荷物を抱え――決意と共に自販機で本日2本目のエナジードリンクを購入するのであった。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
リオランガフェス最終日――。
「てめぇら、お客様には!」
『いらっしゃいませ!』
「お帰りのお客様には!」
『お気をつけてお帰り下さい!』
「イチャモン付けてくる奴には?」
『ゴミはゴミ箱へ!』
「よーし。今日は向こうの店に大差つけて勝とうぜ!」
『へいっ店長!』
向こうは今日も気合が入っているようだ。
しかし、表にこそ出さないがこちらも気合は十分だ。
「大将。準備はいいですか」
「もちろんだ!」
「カンナさん、今日もお願いします」
「あいよ! ……オダナカさん大丈夫かい?」
「はい。もう3本目飲んだので、大丈夫です」
さすがに不眠はヤバいので2時間ほど寝たのだが……起きてすぐにシャワーを浴びて、買っておいた3本目を飲んだのだ。
「おうバルドに、そっちの兄ちゃんよ。今日もオレの油そばがぶっちぎりで勝つから、そこで見てるんだな!」
わざわざこちらに来てまで威勢のいい言葉を浴びせてくるが、すかさずカンナさんが反撃する。
「あんなちっちゃい嬢ちゃんのおんぶに抱っこなアンタにだけは言われたくないね!」
「ぐっ――勝てばいいんだよ! 勝てばお前はオレの女房だ。忘れんなよ!」
そう捨て台詞を吐くガンドルだったが――彼は気付いているのか。あるいは気付かないフリをしているのか。
「兄さん……」
大将もまたそれに気付いたようだが――今は目の前の勝負だ。
「大将。勝ちましょう」
「……ああ」
互いに拳を合わせ――2日目の入場の合図が放送されたのだった。




