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19話 大将とラーメンを売る(初日)5


『ラビラビです。ただいまを持ちまして、リオランガフェス初日を終了とさせて頂きます。ご来場の皆様、まことにありがとうございます。お帰りの際は、お気をつけて――』


 会場内に音声魔法による放送が流れる頃――。


 俺達は屋台の周りの清掃をしてから、再び通りの中央で相まみえた。


「よぉバルド。思ったよりなかなかの盛況ぶりだったじゃねぇか」

「ガンドル兄さんも。そっちのお嬢ちゃんの活躍、ここからよく見えてたぜ」


 ちなみにカンナさんもモナカも明日の仕込みの手配やらでここには居ない。


「今日の時点でもう勝負は――あれ、ウチはいくら出たんだっけ」

「ガンドルさん。多分600杯くらいは出てると思います」

「そんなに出たのか! がっはっはっ……こりゃもう勝負は着いたな。恥かく前に、負けを認めてもいいんだぜ」


 こちらは400杯くらいなので大繁盛と言っても良いが、売り上げ勝負としては負けている。


「まだ勝負は終わってねぇ――俺は、この親方のラーメンを信じるよ」

「チラチラ見えてたが、昔のレシピを再現してたみたいだな……そんな古臭いもの、最前線をいくオレのそばに勝てる訳ないだろ。お前ら、行くぞ」

「へいっ」


 ガンドルはそう言い残すと、部下を引き連れて帰って行った。

 大将も色々言いたい事もあるだろうが、結果として負けている以上は何も言い返せないようだ。


「……正直、味の面で負けてるとは思いたくねぇ」

「そうだな。両方の味を確かめてみたが……料理として見たなら、確かにこの親系ラーメンは美味であった」


 余ったチャーシューをおかずにオニギリを貰って食べているオデン。カッコイイ恰好が台無しである。

 他の2人は既に宿に帰ったらしい――というか、泊まるんだな。


「しかし、向こうの油そばもまた美味しい事に変わりはない。これだけの盛況ぶりだ。明日も噂を聞きつけた客が大勢押しかけてくるだろう」

「何か対策をやらねーと……でも今から出来る事、あるか?」

「それについてはいくつか気付いた事があるんですが……」

「おお。さすがオダナカの旦那だ」

「ここではなんですし、店に戻ってから話しましょうか」


 ◇ ◆ ◇ 



 リオランガフェス対策会議――。


 いつもの店内でテーブル席に座るオルディンと大将を前に、俺は説明していく。


「向こうの油そばですが、回転率を上げる為でしょう。インスタント麺……まぁ、簡単に言えば手作りではない大量生産の麺――それに私の国の調味料やトッピングで味を強化しています」

「どの客もめっちゃ美味そうに食ってたな」

「確かにあの味の濃さは、どれも食べた事のないものであったな」

「しかし、そこに付け入る隙があると思います」


 俺は、自身の考えを2人に示していく。


「今日来たお客さんは、恐らくこの街の住民が多いと思います」

「ああ。他所の町の奴らも居るだろうが……大半はこの街の奴らだろうな」

「つまり将来、このお店に来る可能性のあるお客さん達です」


 俺の言わんとしている事はまだ伝わっていないらしく、2人は首を捻った。


「そりゃあ、そうだろうな」

「で、あるな」

「私はこの売り上げ勝負、2日間しか無いと思い込んでいましたが――」


 考えている内容を詳しく説明すると――。


「ほぉ」

「そういう事か!」

「しかし、これには大将の許可が……」

「いやいや。このままだと何もできずに負けるし、やるしかねーぞ!」


 大将は大丈夫そうだ。

 そうなると、後は俺の仕事だ。


「チラシなどは私に任せて下さい。すぐにでも用意して来ますので。なのでこれを明日は会場の外でも配って欲しいんですが、人手が……」

「では、それは我らがやろう」

「……いいんですか?」

「この美味いオニギリの礼と、それとお前にも貸しを返さねばならぬ」

「ありがとうございます」

「でも対策ってそれだけでいいのかよ」

「もちろん他にも気付いた事があります。それの準備もすぐにしますので――これで失礼します」


 時間はそれほど残されていない。

 大将には明日の仕込みをして貰わないといけないし、オルディンの他にも協力者が必要だ。


「まずは――」


 きゅるるぅ――。

 

「アグリさん!」 

「ひぇっ、見つかった!?」


 お店の外からお腹の鳴る音が聞こえたと同時に、俺は扉を開けていた。


「ど、どうもオダナカ殿。いや、フェスの時間外ならその、店に来てもいいかなって……でもよく考えたら、お店閉めてますよね……」


 指先をモジモジとさせる彼女に詰め寄り、俺はあることを聞き出す。


「少しお聞きしたい事があるんですが……あの第3王子のことです」

「殿下の?」


 首を傾げる彼女の耳元に手を添え、


「それが――ごにょごにょ」


 まずは開幕のスピーチについての話を聞く。

 もしかしたらと思ったのだが――。


「――それは多分、その店の事かもしれません。実は幼少の頃の私ははレオガルド殿下とは共に、父の剣術を習ってたんですが――休憩時間などに、昔食べたそばの話をよくしてくれたんです。私もそれからというもの、料理屋をチェックするようになって……」


 どうやら思った通りのようだ。


「なるほど……で、あるならば――ごにょごにょ」

「――えぇ!? いや、それは……」

「これが頼めるのはアグリさんしか居ないんです。お願いします」

「よく分かんねーけど、俺からも頼むぜアグリ!」


 俺と大将に頭を下げられ、困った顔のアグリだったが――。


「……分かりました。提案だけはしてみるので……上手くいったら、その……私にも新作ラーメン、食べさせて下さい!」

「よし」

「で、なにを頼んだんだ?」


 俺は今日、相手のやっていたパフォーマンスを見て、ある作戦を思い付いたのだ。


「いえ――第3王子レオガルド殿下を明日の屋台へお招きしようかと」

「え、ええええええ!?」


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