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サラリーマン、異世界で飯を食べる  作者: ゆめのマタグラ
シーズン2:異世界の繋がり
52/153

14話 お頭と回転寿司を食べる3

 

 回転寿司店からの帰り道――。

 昼過ぎにもなると風が出てきた。天気はいいが、やはり冬の大通りは風がよく吹き抜ける。

 

「いやぁ。食った食った」

「1人で30皿くらい食べてましたね……」


 メニューにある寿司を片っ端から頼んでいたお頭。

 その度に店員さんを捕まえて色々と聞いていたが、俺も途中で気にするのを辞めた。

 

「いやぁ、しかしこっちの世界はすげーな。料理はテーブルの上を回ってるし、料理人は親切に教えてくれたし……来ている客も凄い多かったな。子供連れとか――」

「……お頭さん?」


 彼は立ち止まり、空を見上げた。

 雲の無い、冬の青空。それは清々しい程に青く、お頭の表情のようだった。


「――俺、出したい店の方向性が見つかった気がする」

「そうなんですか?」

「店は色々と考えてたんだけどな……やっぱ、色んな奴らに食って貰いたいって思ったんだよ」

「さっきの回転寿司屋さんみたいな?」

「ああ。あの店でスシを食ってた子供の顔、楽しそうだったろ?」


 実はというとそこまで見ては居ないのだが、話のコシを折りそうなので同意しておく。


「そうでしたね」

「アレを見て、昔を思い出したんだ――俺がオヤジに拾われて、最初に食べた料理の時の事……」

「先代さんとは血の繋がりが無かったんですね」

「まぁ大事なのは血じゃなくて、ここだけどな」


 胸を握った拳で叩くお頭。


「オヤジも大概料理作るのが好きでな……あの時の味わった魚料理、すげぇ美味かった」

「その方は、今どうして――」

「知らねぇんだわ」

「え?」

「海賊やってた時に騎士団の水軍に負けて、再編成された時には――次の頭領は俺だって手紙だけ残して、どっかに行っちまいやがった」

「じゃあ、今もどこかで料理を作ってるんでしょうか」

「それも分かんねぇけど……いつかオヤジが帰って来た時に、俺の料理を食わせてやるんだ。どうだ俺の方が美味いだろって」

「……」

「大人も子供も笑顔にする料理屋――それが俺の目指す店だ」

「それは、いいですね」

「おっと、それでな――とりあえずショウユとワサビ、コメをたくさん買って戻りてぇんだけど」

「では、正月からやっているスーパー探しましょうか」


 俺はスマホを取り出し、検索をかけるのだった。


  ■◇■◇■◇■◇■◇■◇■ 



 それから2か月後の――3月上旬。


「オダナカさん。こちらがウチのお頭の新しい店でさぁ」


 青いバンダナを巻いた大男のハンスに連れられ、俺は海賊の町からほど近い町へとやってきていた。

 ここは港町からも他の町や村からも程ほどに近く、市場や住んでいる人達も多い。

 新しく色んな人達に向けた店を作りたい――そんなお頭の希望に叶う立地だと思う。


 店の看板には『カイテンスシ ジョニー・キッド』という名と、入口には藍色の暖簾(のれん)が掛かっている。

 しかし、その名前に見覚えは無かった。


「――ジョニーキッドって誰です」

「お頭の名前です」


 ここで明らかになるお頭の名前。

 

「先代がジョージだったので、そこから名前を貰って名付けたらしいですよ」

「へぇ……では、入って見ましょうか」


 ガラガラ――。


 日本の戸のようなデザインのドアを横へスライドして入ると――。


「へいらっしゃい! カイテンスシへようこそ!」


 威勢の良いマッチョな店員の掛け声と共に出迎えられたのだが、それより気になるモノが目に入る。


 寿司が回っている。


 いやここは回転寿司の店なのだから、回転しているのは当たり前の話なのだが――寿司の入った入れ物が、まるでジェットコースターのようにレーンを回転しているのだ。


「おーオダナカさん、来てくれたか!」

「今日はお招き頂きありがとうございます……ご盛況のようで」


 店はそれほど大きい訳ではないが、それでもテーブル席とカウンター席はほぼ満席だ。

 カウンター席に1つだけ“予約席”と書いた札が置かれている。アレが俺の席だろう。


「アレから店作りとスシ開発に忙しくてな。顔出せなかったけど、コメや酒、調味料の仕入れありがとうな」

「いえいえ……」


 お頭――ジョニーとの会話も若干頭に入って来ない。

 目の前には石で出来た水路のようなものがある。その中を水が一方向に流れているようだ。流れるプールのように寿司の入った入れ物が回転していく――。


 そしてもう1つ違うレーンもある。

 こちらは入れ物をセットすると勢いよく射出され、ジェットコースターの回転レーンのように寿司が回り、テーブル席へと届く仕組みのようだ。詳細は分からない。

 他のレーンでも観覧車のようなモノ、メリーゴーランドのようなモノまであるのが見える。

 多分俺の部屋で、テレビでやっていた遊園地のCMでも見たのだろうか――自由が過ぎる。

 かつて俺に寿司のうんちくを語っていた彼が見たら、卒倒しそうだ。


「いやー回転するんだったら、もっとハデな方がいいだろ? これが名物になって、結構子供も来てくれるんだよ」

「はは……」


 よく海外の寿司を紹介するテレビ番組があるが、これを見せたらなんと言われるだろうか。

 ――いや、案外話題にはなりそうだ。


「よーし。とりあえず座ってくれ。今日のオススメは魚卵の海賊船巻き、オオグロのショウユ漬けだぜ」

「では、そのオススメと他にも適当に握って下さい」

「かしこまりましたッ!」


 ジョニーの威勢の良い掛け声に、若干圧倒されながらも――その楽しそうな笑顔は、最高のネタに思えた。


「――では、いただきます」


 お気に入りの店が、また1つ増えたのだった。


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