2話 異世界で喫茶店へ行く1
「あっついなぁ」
5月のこの時期は朝寒く、昼は暑いことも多いため、外回りの仕事は中々堪える。
さらに、今居るのはそれなりに傾斜のキツい坂の上だ。ハンカチでは吸い切れない汗が大量に出ている。
既に仕事は終えて後は帰社するか、部長に連絡して直帰でもいい。
ひとまず休憩を入れたいので喫茶店なんかでゆっくりアイスコーヒーでも飲みたい所だが。
「この辺はコンビニとスーパーくらいしかないか」
住宅地に近い高台のここは気の利いた喫茶店などは無い。
コンビニやスーパーのイートインスペースを利用する手も考えたが、地元の人らが井戸端会議している事も多く正直落ち着かない。
となればやる事はひとつ。
スマホを取り出し、
「あっ竹中部長、お疲れ様です。えぇ……はい。そうです。はい……あっ、それで私は今日直帰します。報告書は……はい。メールで……それでは失礼します」
やはり異世界に行くなら、こういう晴れやかな気持ちの時がいい。
早速いつも通り、鍵を取り出す。異世界の行き来する為の鍵は3本ある。
黒は今まで行ったことがある町へ。白は逆に行ったことが無いけど飲食店のある町へ行ける。
例えば魚が食べたいと念じながら白を使えば、恐らく港町に行けるだろう。
最後に数字“3”が印字された金色の鍵――これは緊急脱出の鍵。地面か何かに突き刺して回せば即座に俺の自宅に行けるらしい。まだ使った事は無い。
というのもコレだけ有料で値段がかなり高い(ゲーミングパソコンの良い奴が買える)上に、使用回数に制限があるのだ。勿体無いし本当にピンチの時だけ使おうと思う。
「さて……じゃあどっか喫茶店をお願いしますっと」
路地に入り適当な扉に白い鍵を差し、回す。
扉を開け、中に入ると――そこは砂漠であった。