シーズン5エピローグ(後仕舞)
「はー。ようやく出発できますねー」
「貴重な体験だったよ」
馬舎でシェリーが手荷物を馬車の荷台に乗せている後ろ姿を見守るアグリさん。
大通りのどこかで、大工がハンマーを振り下ろす音が聞こえる。
「さっそく工事に取り掛かったみたいですね」
「帰りには完成しているだろうし、またこの街に寄りたいです」
「そうだな。ドドガンの旦那も、シンシアさんも喜ぶと思うぜ」
俺の隣には――何故か見送りに来たマイオスが居る。
モナカは一足先に帰ったので、俺もこれが終わったら帰るつもりだ。
「マイオス殿も、探偵業頑張ってください」
「本当に、探偵としてまともな仕事が欲しいぜ」
もうドラゴン狩れるくらいの腕っぷしがあるなら、諦めても良いとは思ってしまうが――本人のやりたい事と、適正が釣り合ってない事はままあるので、黙っておく事にする。
「しっかし。旦那の店にカフェの増築とはねぇ」
俺の案はなんてことはない。
カフェとステーキ屋を増築して、新たな調理スペースを作る事だった。
熱いステーキを食べたら、冷たいデザートを提供する。
カフェではステーキと同じ肉を使ったハンバーグや、ベーコンを作り提供する。
そもそも、だ。
正反対な料理が競合するようなモノではないので、こうやって提携するのが1番丸く収まるだろう――そんな誰でも思い付きそうな平凡な案だ。
「これで良かったんでしょうか」
「まぁ……2人共面倒な性格だし、自分達だけで素直に提案なんて出来ないからな」
「誰かに後押しして貰える事で、出来る事もあると私も思います」
懸念があるとすれば、店長同士の話が纏まっても、それに付き合う店員はどうなんだろうか。
「どっちの店員も困惑しているでしょうね……」
「エルフ達がどうだか分かんねーが、オーガの奴らは鼻の下伸ばしてたぜ――まぁ、なるようになるさ」
「はー。これだから男は……」
一部始終を聞いていたのか、シェリーは深いため息をつく。
「じゃあオダナカ殿。マイオス殿も、見送りありがとうございます」
「はい……アグリさん」
「なんでしょうか?」
「ここでは話がし難いので、また今度……重要なお話があります」
「……分かりました。覚えておきます」
「いきますよアリアン様!」
シェリーとアグリさんを乗せた馬車は、山を沿うように街道を進んで行く。
意外とスピードの出ている馬車を見送った後で――俺はその視線のする方を見る。
「えーっと、どうしました?」
「いや。あの第3騎士団の団長様が頼りにしている商人ってのが、気になってね」
「ぶっちゃけ本業も迷子や猫、失せ物探しばっかで――ここはひとつ、街を離れて見聞を広げる旅でもやるかなって――」
俺は、その言葉を聞き終える前にダッシュで建物の影へと移動する。
懐に手を入れたところで、背後に気配を感じた。
「まぁそんな邪見にするなって。アンタも他の街を巡るんだろ?」
振り返ると、ニコやかな表情のマイオスが立っていた。
息を切らしている俺とは違い、全然余裕そうだ。
「この辺の街道にはゴブリン盗賊も出るって噂だ。護衛も必要だろうし、タダでやってやるよ」
目の前に居るのは、凄腕のハンターであり冒険者である男だ。
ここで金の鍵を取り出しても、ヘタしたら着いて来られる可能性が高い。
変に興味を持たれて、さらに付きまとわられても困る――。
「はぁ――分かりました。でも、次の街までですよ」
「有難い! もちろん宿代や飯代も俺が持つんで、そこは遠慮しないでくれ!」
「ではまず、馬車乗り場に行きましょうか」
「行きたいところは目星付けているんだ。なんでも、最近冒険者達が謎に集まる町があるらしくって――」
こうして、俺はこの自称探偵を行動を共にする事になってしまった――。
どこかで目を盗んで、金の鍵を使えれば良いんだが。
思わず空を見上げれば――俺の心とは裏腹に、爽やかな青空が広がっていた。
ブクマ、星(評価)、コメントなど、いつもありがとうございます!
シーズン5はここまでになりますが、これからもこの作品をよろしくお願いします。




