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33話 異世界の漬物と令嬢と5


「ここは、どこだ?」

「屋敷近くに特別に用意した、漬物の加工をする設備です」


 俺達は無事、村の中へ入れて貰えたので早速漬物に関しての聞き込みを行った。

 そこで作り方を教えてくれるという背の低いご婦人(多分ドワーフ)に出会い――残りの日本酒を全部渡したので、ジョニーが若干不機嫌である。

 彼女の家へと入った段階で、レイテの目隠しと耳栓を取ったのだ。

 

「あらーお兄さんもイケてるわねー。オバさん、張り切ったちゃうわよ」

「はぁ」

「と言っても特別な事は何もしないのよ。まず畑から採ってきたガブを――」

「キシャァアアッ!」


 見た目にはどう見ても白く太く短いカブなのだが、胴体部分に口のようなものが付いている。

 夫人が頭(?)の葉っぱ部分を持っている為、それ以上は身動きが取れないようだが――。

 

「うわっ、まだ生きてるぞソイツ!」

「それだけ新鮮なの使うのがいいのよ。はい」

「キャッ!?」

 

 器用にナイフでガブを刺すと、途端に動くが止まりただのカブにようになった。

 この世界の野菜はトドメを刺すと野菜になるのだろう。よく知らないけど。


「まず頭の葉っぱを切り落とすけど、これも食べれて美味しいのよ」

「そ、そうなのか?」

「それで、まず皮を剥いて薄切りにしていくの」


 薄切りにしたガブの切り身を、いくつかの木の板の上に並べていく。

 それを持って外へと持って行く夫人。俺とジョニーもそれを手伝う。


「それを漬けるんじゃないのか?」

「そうよ。でもその前に、お日様の魔力を浴びせてあげるの」


 家の前に並べる。天気は良く程よく乾いた風も吹いているので、干すには絶好だろう。

 再び家の台所へ戻って先ほど切り落としたガブの葉っぱの調理に取り掛かる。

 

「このままだとアクが強いから、沸かしたお湯で少しだけ煮るのよ」

「なるほど……」


 茹でた葉っぱは一口大に切り分けられ、塩をまぶし、手で揉むようにすり込んでいく。

 それ木の器の中へと入れて、レイテへと差し出す夫人。


「はい。ガブの葉っぱの和え物よ」

「って塩で揉んだだけじゃないか。他にも色々調味料使ったりとか……」

「いいのよ。これだけでも十分美味しいから」

「本当だろうな……」


 そう言いながら用意されたフォークで葉っぱの塩揉みを一口食べるレイテ。


「――美味しい」

「でしょ?」

「なんでだ。僕は美味しい漬物を作る為に、色んな調味料を用意して液を作ったのに……ただ塩を入れただけのコレがこんなに美味しいなんて」

「あら。お兄さんも漬物作るのかしら?」

「……最近、色々試行錯誤してるんだけど……」

「ふんふん。おばさんにちょっと教えてみなさいよ」


 やはりこういったのんびりとした村で住んでいると、色々と持て余すのかレイテの話に興味津々な夫人。

 ガブの天日干しを待つ間、台所でお茶を飲みながらレイテの身の上話を聞く事になった。


「へー。好きなお嬢さんが、漬物が好きでねぇ」

「ここは彼女の屋敷で働いていた使用人の作る漬物が凄い好きだったらしく……」

「でも、ここの村の特産品みたいな漬物は無いのよ」

「無い!?」

「外から人が来る事も稀だし……昔から村に伝わってきた保存食の作り方を、各家で代々受け継いでるのよ。だから私の漬物も、そのメリアって人の漬物も同じモノじゃないと思うの」

「そんな……」

「あら、何か悪い事言っちゃったかしら?」

「いえ。大変、参考になる話でした」


 夫人のその話を聞いて、俺はヒラレーさんの出したお題の意味を考えていた。

 新しい味とは、必ずしも未知のモノを指すモノでは無いのではないだろうかと……。


「さぁて。そろそろ漬物を作ろうかしら」

「おう。オレも手伝うぜ」

「ありがとうね。じゃ、早速干してるの持って来て貰おうかしら」

「おうよ」


 ジョニーと俺で外からガブの乗っている板を運んでくる。

 夫人は赤い液体の入った瓶を用意して、それを大きなボウルの中へと入れていく。


「すんすん――これ、ワインか?」

「そうよー。森で採れたブドウから作ってるのよ」


 多分、そのブドウもただのブドウではないんだろうな――とは思いつつ、余計な茶々は入れない。


「これにツルから搾った汁を入れて、少しだけお塩を入れるの」

「アマヅルだな。町中だと、錬金術で品種改良してもっと甘いの出回ってるな」

「これでも十分なのよ。はい、後はそのガブを入れて頂戴」


 薄切りにされ干されたおかげですっかり水分が無くなったガブを、ボウルの中へと入れていく。


「はい。後はこれで一晩待てば完成なのよ」

「割と簡単だな」

「言ったでしょ。なにも特別なモノは何もないのよ」


 そう言って夫人は陶器の容器に漬物を半分ほど入れてくれた。


「これ、アナタ達の分よ」

「あっ、どうもこれはご丁寧に……」

「もう夜が来るけど、どこか泊まる場所は決まってるのかしら? 良かったら、ウチでもいいけど」

「いえ。それには及びません」

「そう? もし良かったら、娘さんとどうなったかまた教えに来てね」


 項垂れるレイテと、夫人から貰った漬物を持って俺達は家を出た。

 そのまま村の外へ出るのだが、例の門番をやっていたドワーフは――。


「ぐおおお……ぐおおおお……」

「こいつ寝てやがるぞ」


 周囲にはカップ酒の瓶が転がり、気持ち良さそうに寝ているのだが――さすがに起こしてから戻る事にした。

 ちなみにゴミは全部回収した。


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