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33話 異世界の漬物と令嬢と4


 参考として用意していた漬物をテーブルへと並べ、簡単に説明していく。


「このウメボシとタクアンは、漬ける前に干す工程が必要なのか……」

「レイテさんの漬物はどうやって作ってたんですか?」

「基本的には野菜を細かく刻み、花から抽出した香料と調味料と一緒に漬け込んだものだ。女性が好む良い香りと、見た目も華やかな彩りの仕上がりとなる」

「なるほど……」


 想像通りなら、確かに見た目だけは美しいだろうと思う。

 

「1回目は白いガブに赤や紫、黄に着色して、花束のような漬物を提出した」

「ちなみに2回目は?」

「女性は甘い物を好むと聞くので、植物から抽出した糖で甘く煮た最高級のマンドラゴラの漬物を作った」

「それってただの甘露煮じゃ……」

 

 彼のやり方がすべて間違っている訳では無い。

 たくあんにしろ他の漬物にしろ、花や植物を使って着色する方法はある。

 砂糖などを入れて甘みを付ける漬物もある。


 しかし――。


「……もしかしてレイテさんって、ご自身で料理とはされた事は……?」

「無いよ。そういうのは全部、使用人の仕事だ」

「料理のレシピ本みたいなのは見た事は?」

「いくつか買って来させて目を通したが漬物に関する記述はどれも少ないし、凡庸な作り方だ。僕はもっと、新しいモノが作りたい」

「……分かりました。ひとまずレイテさんにやって貰う事が見つかりました」

「なんだいそれは」

「……普通の漬物を作っているところを見に行きましょう」


 ◇


 ◆


 ◇ 


 俺とジョニー、目隠しと耳栓をしたレイテを引き連れて、扉から外へと出た。

 出て来たのは風車小屋の扉らしく、頭上では大きな風車が回っているのが見える。

 もうすぐ昼といった時刻で、陽気をたっぷり含んだ心地良い風が頬を撫でる――。

 

「ここが、あの亡くなった家政婦さんの故郷か」

「えぇ。伯爵様に聞いた話だとそうらしいです」


 ジョニーにも手伝って貰い、屋敷から一旦彼を呼びに行き――ついでに目隠しなどの用意をしてから、レイテを連れ出したのだ。

 

「え? 何がどうなってんだ?」


 魔法師である彼に鍵の事を知られるのはマズいので、こうやってバラエティー番組の芸人みたいな状態で来て貰った。

 彼も最初は嫌がっていたが、ヒラリーさんの為だと説得する事で、なんとか承諾を得る事が出来た。


「では、探して見ましょうか」

「お、おいどうなってんだ!?」


 ジョニーに彼を米俵のように肩に担いで貰い、まずは風車小屋から伸びている畦道を歩き近くの集落を探す事に――。

 周囲一面には黄金色の麦が風に揺られ、のどかな風景がどこまでも続いている。

 特に用事もないのであれば、ここらでゆっくり休憩してもいいのだが――。


「おっ、オダナカさん。あそこにそれっぽいのあるぞ」

「行って見ましょうか」


 道の先に、空へと立ち上る白い煙のようなモノが見える。

 煙があるという事は、恐らく人が住んでいるのだろう。

 しばらく歩き近づいてみると――周囲が堀と手製の柵で覆われた集落を見つけた。

 

「おんや。アンタら、ナニモンかえ?」


 門と扉の前には、髭をたくわえたドワーフがクワを持って立っていた。

 恐らくは、彼がここの集落の門番なのだろう。

 俺は正直に、事情を話す。


「実はメリアさんという方が、昔この村に住んでいたと聞きまして……」

「メリア? メリア……あー」

「知っていますか?」

「いや全然知らんがぁ……多分、もう50年以上前だったかな。60年だったか。麦の値段が暴落した時があってな――食い扶持減らす為に、行商人に子供何人か売ったんだわ。その中に、メリアって居たかもなぁ」


 俺とジョニーは少し渋い顔をしながら顔を見合わせる。

 酷い話だとは思うが、そういった事は割とよくある話だ。

 その事で彼を責めても仕方が無いので、話を進める。


「実は去年、メリアさんが勤め先で亡くなられて……」

「あれま。この年まで生きるって事は、よほど良い所に買われたんだなぁ」

「えぇ。それで――」


 簡単な事情を話した。

 

「ほぉ漬物か。確かにウチじゃ、昔からカカアが作ってるのがあるな」

「それを作ってるのを見せて欲しいんですけど……」

「――ならん。余所者を入れてはいかんからな」


 これは当然、予想していた。

 そこで俺は、リュックから液体の入った瓶を1本、取り出した。

 透明の円柱のグラスに、アルミのフタが付いた――いわゆるワンカップなお酒だ。


「これ、実は私が取り扱っているお酒なんですが」

「……そんなもんで買収なんぞされんぞ」

「これは、この世界のどこにも無い凄い特別なお酒なんですよ……そして、ツマミの野菜です」


 俺はさらに入れ物に入ったキュウリスティックと、モロミが入ったタッパーを取り出す。


「この緑の野菜を、この特別なソースに付けて食べると――」


 歯ごたえのある音が、ドワーフの彼にも届いたのか――少し眉が動く。

 すかさず、俺はワンカップの蓋を開ける。


「そして、ここへこの酒を流し込むと――ぷはっ」


 酒の匂いが彼まで届き――。


「た、確かに嗅いだ事の無い匂いだ……」


 ある意味業務中ではあるが、これも全ては依頼の為だ。

 こちらに興味を持ったドワーフは、物欲しそうな顔になる。

 

「さらにたくあんも頂きましょうか」


 ポリポリ――と、気持ちの良い歯応えが口の中から伝わってくる。

 

「お、おいオダナカさん。オレの分もないか?」

「ありますよ。中には入れませんし、ここで少し酒でも飲んでいきますか」


 それを聞いたドワーフが、思わず叫ぶ。

 

「なっ。やるなら他所でやらんか!」

「他にもツマミになる食べ物色々あるんですけど……さすがにちょっと多いですね。悪くなっても困りますし、おひとつどうですか?」

「うぐっ――ま、まぁツマミだけならいいじゃろ」


 酒の匂いに当てられてか、モロミを付けたキュウリを受け取るドワーフ。


「むっ。この瑞々しい野菜はなんじゃ!? この粒々したソースも味が濃ゆく、食欲を掻き立てるわい!」

「ぷはっ。やっぱニホンシュはうめーよなぁ」


 本格的に飲み始めたジョニーを前に、ドワーフはワナワナと震えだす。

 

「ぐぬぬ――」

「どうしました?」

「――じゃ」

「はい?」

「そのニホンシュとやらを寄越んじゃ!」

「いいですよ」


 リュックから出したワンカップの蓋を開け、ドワーフに手渡す。

 受け取るやいなや、まるで水のように酒を飲んでいく。


「むっ。このピリッとした辛い口当たりに、微かな果実のような、いや、これは違う――いやしかし……」


 だが、彼なりにしっかり味わっているようだ。

 さらにキュウリを食べ――、


「むう。このツマミに、このニホンシュはよく合う! なんじゃこれは!?」

「良かったら他のツマミも試してみてください」


 次々とツマミを取り出し、彼の前に並べた。


「これは海産物か? 白いツルのようじゃが、噛むほど味が染み出てくる……これも美味い!」

「あっ。村の中へ入ってもいいですか?」

「ああもう入っていいから、もっと酒も寄越すんじゃ!」


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