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サラリーマン、異世界で飯を食べる【コミカライズ企画進行中】  作者: ゆめのマタグラ
シーズン4:揺れ動くこころ

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33話 異世界の漬物と令嬢と1

 

 ガラガラ――と、車輪が硬い地面に当たる音が響く。

 

 時折揺れる馬車内と窓から見える風情豊かな風景を楽しみながら、俺達は(くだん)の伯爵様の住まう屋敷を目指していた。

 郊外にも関わらず道は比較的整備されているおかげか、会社の椅子より幾分も上等な椅子の座り心地のおかげか――腰と尻は傷めずに済みそうだ。

 

「すまねぇなオダナカさん。納品に来て貰ったのに、面倒事頼んじまって」


 こちらでの一般庶民の乗るのよりずっと立派な作りの馬車に揺られながら、向かいの席に座るジョニーが申し訳なさそうに謝る。

 くすんだ金髪だが、今日は丁寧にクシが入れられた髪型だ。服装も儀礼用の服装なのか、海のように青い色をしている。赤や金の装飾のラインが入り、卸したてのように真っ新だ。

 ただ最近は着てなかったのだろう。

 サイズが合ってないのか、ちょっとぱっつんぱっつんとしていて着心地が悪そうだ。


「いえ。いつも何かと頼りにさせて貰ってるのは、お互い様ですし」


 俺も恰好こそいつものスーツ姿だがネクタイピンを付けたり、少し香水も付けてある。靴もちゃんと磨いて来た。

 基本的にいつも理髪店で済ませているので、美容院まで予約するのはどうかと思ったので、市販のワックスで髪も素人なりに整えた。

 そして、


「あそこのユリ園すげーな。帰りにちょっと写真撮ってみたいなー」


 俺の隣には、これから社交ダンスでも踊りそうな白いレースが特徴的なドレス姿のモナカが居る。

 集合場所にやってきた時は、ピアノの発表会へとやってきた小学生に見えたことは黙っておく。

 いつもの髪はソフトクリームのように盛られ、知らない匂いの香水を使っているようだ。


「まさか伯爵様の家にむ、向かってるとは……オダナカさん。オ、オレの格好ど、どうですかい」


 ジョニーの隣には、金のラインが入った黒いスーツに赤いシャツ。首には白いファーのようなマフラー。さらに厳ついデザインのサングラスを掛けた藤生の姿があった。

 本人の体格の良さと相まって、控えめに言っても裏社会の人間にしか見えない。

 何故そんなマフィアのボスみたいな恰好なのかと聞くと、


「ここはオレも舐められちゃいけないと思って……でも、そんなお偉いさんだと思ってなくて」


 確かに伯爵相手だとは俺も伝え損ねていたが……。


 グループのチャットでジョニーの依頼の事を話題に出したら、着いていきたいと2人が言い出したのだ。

 貴族……それも伯爵相手の依頼に俺1人だと不安もあったので、誘っておいたのだが――。

 

 藤生は緊張のせいか、どこか目が虚ろでいつもの調子が出ていないようだ。

 反対に、いつもより気合の入った格好のモナカは意気揚々だ。


「どうしようかなー、もしかして伯爵様の息子に一目惚れとかされて……玉の輿とかヤバくない?」

「お、おぉ。ヤバいっちゃヤバいんじゃねぇか?」

 

 少女漫画の主人公にでもなったように瞳をキラキラさせながら藤生に話を振るモナカ。

 

「……オダナカさん、こいつ等は大丈夫なんか?」

「大丈夫ですよ。多分」

「多分かー」


 馬車はゴトゴトと揺れながら、貴族の屋敷を目指す――。

 

 ◇

 

「ジョニー様。そしてお連れの方々。ようこそいらっしゃいませ」

『いらっしゃいませ』


「「うぉっ、すっげぇ……」」


 屋敷の玄関前に並んで出迎えてくれた老執事と、深々とお辞儀をするメイド達の姿を見て感嘆の声を漏らすモナカと藤生。

 俺も2人と同じ感想である。これほどの待遇を公的に受ける事は今まで経験の無い事だ。

 もちろん思った通りの、感嘆の言葉を口に出す事は無いが。

 

 ただ伯爵の屋敷という事で、無駄に豪華な建物を想像したが――屋敷そのものはシンプルかつ分かりやすい長方形のような木造の洋館だ。

 昔、地元にあった小学校の校舎を思い出す見た目である。


「セウンスさん、別に出迎えは普通で良いってチョビアン様にも言っておいたんだけどな」

「いえいえ。伯爵様のご招待で来られた方に粗相はできませんよ」

「お荷物は我々がお持ちしますので……」

「あっ、はいどうも」


 メイドさんにカバンを渡し、俺も改めて襟首を正す。

 モナカも手鏡で化粧直しをしているようだ、藤生も腹を括ったのか見た目にはオドオドしなくなった。


「では、こちらへどうぞ」


 玄関が開かれ中へ入ると――もちろん普通の家などに比べたら立派である。絨毯や壁紙、シャンデリアもお金が掛かっていそうだが、どれも少し色褪せて年季を感じる。

 魔獣の毛皮が敷いてあったり、高価な美術品でも飾ってそうなイメージがあったが……飾ってあるのは素朴なデザインの花瓶に活けられている白いユリのような花くらいだ。

 

 だからこそ、ホールに飾られている大きな肖像画に目が留まった。

 それは若い貴族の男性が中央に座り、金髪のロングヘアーの少女が寄り添っている姿だ。

 少女は笑顔で、そこで活けられているのと同じ花を持っている。


「あの方がチョビアン伯爵様と……ご令嬢のヒラレー様です」

「なるほど」


 こちらの思っていた事を見透かしたように老執事のセウンスさんは、説明をしてくれた。

 

「このお部屋でお待ちください。直に、伯爵様はおいでになりますので」


 応接室に通され、やはり年季の入ったレトロなソファへと座る。

 待つ間にメイドさんが持って来てくれたお茶を菓子を食べつつ、伯爵の依頼についてジョニーへ話を振る。


「――あまり詳しく話を聞いてませんでしたが、この間聞いた話だと……」

「ああ。なんでも伯爵様には3人子供が居てだな」


 伯爵と奥さんの間には息子が2人、娘が1人。

 長男は家督を継ぐ為に残り、息子は養子として家を出ている。娘も、他の貴族の家の嫡男と婚約の話が出る年頃になった。

 伯爵家の令嬢でもあり、本人も美人。貴族達が集まる晩餐会では、よく他の家の男子達にダンスへ誘われるというのだ。

 そしてある日。娘の婚約者を選定するに辺り、いくつかの家が名乗りを上げた。


「ひえー。伯爵令嬢ともなると、相手もより取り見取りって事か」

「いいなー。アタシもそんな風にパーティーでダンスに誘われてみたいねー」


 しかし娘はこれを断る。

 父親である伯爵が聞いても理由は言わず、頑なに縁談を断わり続けたが……ついに最近、説得に応じたという。

 ただし、条件付きで。その条件をクリアした相手とだけ婚約すると言ったのだ。


「で、それが漬物なんです?」

「ああ」

「漬物? どっから出てきたの」

 

 コンコンとノックの音が鳴り、扉が開くと……先ほど会った執事のセウンスと、少し太った体型の中年の男性がそこに居た。

 身なりからして彼がチョビアン伯爵だろう。

 一同が立ち上がろうとすると、彼はそれを制した。


「いやいいんだ。楽にしてくれていればいい……ジョニー君。よく来てくれたね」

「ご依頼の件、オレだけじゃ手に余りそうだから、言ってあった通り応援を頼んだんだ」

「初めまして伯爵様。わたくし、『大中もなか』と申します。以後、お見知りおきを……」


 率先して自己紹介をしに行くモナカ。片足を少し引きながらスカートの端を摘まみ、上半身を正したまま上下をして挨拶をする。

 

「おお。可愛らしいお嬢さんだ。娘の小さい頃を思い出すよ……今日はお父さんと一緒に来たのかな?」


 ぶっと藤生が噴き出すのが見えた。

 しかし、モナカもこういった事が言われるのは慣れているのか特に動揺もなく、


「あそこに居るのが、わたくしのパパの雄二郎です」

「ぶっ」


 今度は俺が噴き出す番だった。


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