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32話 異世界の新人冒険者達と2


 そこからしばらく時間が経過して――。

 

 ようやく休憩できそうな空間のある部屋へとやってきたので、床に荷物と腰を下ろす。

 ここの部屋へたどり着くまで2時間弱、それまで色んな罠が待ち構えていた。


「流石オダナカさん。ベテランの商人さんは罠にも詳しいんですね!」

「本で見たことも無い絵に隠されたヒントも見つけちゃうなんて……」

「あの迫り出す壁の罠とか、よく気付けたんだなぁ」


 3人共々褒めてくれるのは嬉しいが、なんとも居心地が悪い。

 ここまで確かに色々な罠があった。

 ジータとモルトが言っていたのは、通路の天井からぶら下がったある“看板”のことだ。


 看板には“電車のマーク”が記され、白線もご丁寧に引かれていた。

 俺は彼らにしばらく待つように促し――少しの時間の後、前の壁が一斉に押し出された。

 もしあのまま進んでいれば、全員壁のシミになっていた事だろう。


「そういえばあの迷路も、全然迷わなかったですよね!」

「“この部屋を出るまで午前とする”という意味よく分かんなかったけど……」

「スッと抜けれて凄かったんだなぁ」


 迷路の部屋。

 何度も直角に曲がる通路が連続しており、分かれ道には“6-9”や“19-24”といった数字の表示。

 あとは今が午前である事を前提として道を選んでいくだけだった。

 この世界には機械製の時計はないし、何より数字は異世界特有のモノである。ここに描かれていたのは、俺のよく知る数字だ。


「なんでこんな所に……?」


 他にも仕掛けはあったが、それらは現代日本でもよく見る“道路標識”である。

 多少こちらの世界向けに変えてあるモノもあったが、それでも意味は通じるモノが多い。

 今までも日本にあるモノがこちらに来ている事は幾度となくあったが、それを利用したトラップは初めて遭遇した。

 

 しかし、ここで考え込んでも答えは出ない。

 気分を変えて、俺は彼らにあの質問をする事にした。


「皆さんは“アレ”は依頼で取りに来られたんですね」


 もちろん“アレ”がなんなのかは知らないが、ここはカマを掛けるつもりで誤魔化して聞く。

 

「ああ。元々は近場の領主が強い魔法の武器欲しがってて、それを言い値で買い取ってくれるってお触れを出したのが発端なんだ」

「なかなかお眼鏡に叶う武器がなかったらしいんだけどー、今回わたし達が狙ってる“アレ”は……」

「今の魔王より、遥か昔の魔王を打ち滅ぼした勇者が持っていたらしいんだ」

「ま、眉唾モノだと思われてたけど、き、近年の研究でこの遺跡が、元々勇者の修行場として使われていた記録があるらしくって……」


 まるでファンタジーゲームのような話だ。

 しかし遥か昔と言わるくらいだ。日本の道路標識なんて多分100年以上も経ってないだろうし、誰かが後で持ち込んだのだろうか。

 謎は深まるばかりだ。


「こ、ここの入り口すぐのところの壁に、訓示が掘ってあるんだな」

「えーっと、“汝、勇気を持つ者であれ”だっけ」

「あと“己以上に周りを見ろ。強き心を持て”とも書いてあった。意味は分からないけど、多分勇者としての気構えを示してあるんだろう」

「そういえば、子供の頃に勇者の童話聞かされたっけ」

 

 ◆

 

 凶悪な魔王が世界を闇に包み、それを倒した勇者の物語。

 男は田舎の村育ちの冒険者で、度重なる魔王軍による破壊活動に胸を痛めた。

 

 それをなんとかするべく立ち上がり、各地を冒険して仲間を集め、伝説の武器を探し求めた。

 聖なる樹の袂に刺さっていたその剣は、勇者にしか引き抜けない。

 勇者はその剣を手にし、邪悪な魔王を打ち滅ぼす。

 

 こうして男は勇者して称えられ、王国の姫様と結婚して幸せに暮らしましたとさ――。

 

 ◆


 この国ではそういった歴史が、童話として残っているのだという。

 

(でも、もしそれが本当ならもう誰かが見つけて持って行っている可能性もあるんじゃ……)


 という言葉も出かかったが、やる気ある彼らの意志を挫いても仕方が無いだろう。

 

「ここまでなんとか来れたけど……魔獣とか魔物とか全然見ないわね」


 前にリーエン達とダンジョンへと潜った時にはスライム、ガーゴイル、コカトリス、巨大カニなど色んな魔物と遭遇した。

 対して、このダンジョンではそういったモンスターとは遭遇していない。

 

「勇者の使っていた修行場だったからな。魔物も近寄らせない神聖な力があるのかもしれない」

「なるほどね……」

「わ、罠も詳しい人間にしか解けないモノだし……これはいよいよなんだな」

 

 3人はポジティブに解釈していた。

 俺も引っ掛かる部分はあったが、ワイワイと楽しむ3人のやる気に水を差すのもはばかられ、結局言い出せなかった。


 ◇


 それからもいくつかの仕掛けを解き、恐らくダンジョンの最奥の部屋があるであろうところまでやってきた。


「よし、開けるぞ」


 グレンが力を籠め、ゆっくりと大きな扉を開く。

 この扉だけは石造りで横へスライドする引き戸のようだ。

 

 ガコッ――ズズズッ。

 

 ここまで加工された石で出来た造りのダンジョンだったが、この部屋だけは違う。

 天然の洞窟を利用して造られたのか、壁も床も湿気で濡れており、さらに奥から少しぬるい風が吹き込んでくる。

 

 いや――。


「なんか、生臭くない?」

「そ、そうだなぁ……それに風も流れがなにかおかしいような……?」

「……あれ?」


 1番前を歩いていたグレンが、足を止める。

 それに続き、後ろに並んでいたモルトとジータ、そして俺も立ち止まる。


「ちょっとグレン? どうしたのよ」

「いや、奥になにか気配が――」


 グレンが手に持ったランタンを上に掲げると――()()


 深い緑色のウロコに覆われた皮膚。

 トカゲとワニを足した見た目でありながら、その身体は乗用車よりも大きい。

 その手足に生えているツメは、鋼鉄の鎧すらやすやすと切り裂きそうだ。


「ド、ドドド――」

「はわ、はわわ――」

「ドラ――!?」


 そう、ドラゴンだ。

 しかしその瞼は閉じられ、規則正しい呼吸音が聞こえる。


 シュウゥゥ――スゥゥゥ――。


「ど、どどどどう――」


 グレンが慌てたように腕を振る。

 ランタンがの灯りが不規則に。その灯りにドラゴンが顔を照らされて、瞼が微かに動く。


「――グレンさん」


 俺はグレンの前まで出てそっと腕を抑える。

 出来るだけ落ち着かせるように、ゆっくりと声を掛けた。


「まずは大きく息を吸い込みましょう――」


 じっと彼の目を見る。

 そうすると、彼も俺の言葉の通り息を吸い込み――はく。

 

「この表示を見てください」


 ランタンが地面を照らしている。

 そこには“Uターン禁止”が描かれている。もちろんその意味を知るのは俺しか居ない。


「ここから先、引き返すと――恐らくドラゴンが起きて襲ってくるでしょう。お2人も、決して下がらないように」

「は、はい」

「わ、分かったんだな」


 ゆっくりと歩いて進む。

 真横ではドラゴンが規則正しい寝息を立てているが、俺達が隣に居ようと意ともしていないようだ。


「と、扉がある」


 洞窟の壁に石製の扉を見つける。

 この空間はまだ奥へと続いているようだが、先は暗く見えない。しかし風の流れは奥へと続いている。

 憶測でしかないが、このドラゴンの通り道になっていて外へと続いているのかもしれない――が、よくよく壁を見ると“一方通行”を示す矢印が描いてあった。

 つまり入ったが最後、最悪どん詰まりに閉じ込められる可能性もある。そんなリスクは侵せない。


「入りましょう」


 俺に促され、グレンとモルトの2人掛りで扉を開ける。

 重そうにゆっくりと扉は開き、俺とジータは急いで中へと入る。

 続いて残り2人も中へと入り、ゆっくりと閉めた――ところで、3人は力尽きたようにその場に座り込んだ。

 俺も、表にはあまり出していないがかなり汗が出た。


「はぁ、はぁ……」

「ドラゴン…………わたし、こんな間近で見たの、初めてだよ」


 実際に食べた事もあるし、飛んでいるところも見た事があるが……俺もここまで接近したのは初めてかもしれない。


「あの大きさ――多分、もうほとんど成体だったと思う」

「そうですね」


 適当に合わせては居るが、俺もドラゴンに関して知っている事は少ない。

 その種類によって成長速度が異なり、長生きするドラゴンは1000年以上とも聞く。


「私の友人が言っていました。大きく成長したドラゴンは、決して個人で討伐できるような存在ではないと」


 ――と、個人でも勝てそうなアグリさんが教えてくれました。

 しかし彼女がそうまで言うのなら、やはり危険な存在なのだろう。


「せ、成体なら、騎士団や冒険者ギルド総出で対処するような案件なんだなぁ」

「ドラゴンの巣になっているダンジョンに、そりゃ魔物は住み着かない……」

「で、でもなんとかここも突破できたね……」


 今のが最後の試練的なのだった事を祈りながら、俺達が入った通路の奥を見てみる。

 ここは今までの通路と同じような造りで、ぼんやりと光るシダのおかげで視界は悪くない。


「ここまで来たら進むしかない、か――」


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