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27話 異世界への鍵を持つ者達8


 その声にはもちろん聞き覚えがある。


 階段を降りてきたのは、喪服のように黒いスーツに身を包んだ――“芝田”だ。他に護衛などは付けて居ないようだ。

 その手にはトレイを持っており、カップヌードルにお湯を注がれたモノが2つ乗っていた。


「まだ死なれるのも困るので、こちらは差し入れですよ」


 そう言ってニッコリと微笑みながら、鉄格子の下にある隙間からトレイをこちらへ渡してくる。

 

「貴方が芝田、だったんですね」

「その通り。わたくしが、ここの魔王反抗組織”ヴィクトリーハウス・シバタ”のボス補佐官です」


 堂々とした態度で、両手を広げながら自慢げに話す。

 

「なんだその中学生が付けたような名前――いや待てよ芝田。お前がここのボスなんだろ?」


 その通りだ。結局名前を偽っていた為、目の前のこの男こそがマスターが言っていたボスで間違いないだろう。

 しかし、芝田はそれに対してこう答える。

 

「はい。芝田という男がボスです。そしてこれからは、貴方が“芝田”ですよ、お猿さん」

「誰が猿や! 大体、お前の言ってる事がちっとも意味が分かんねーよ」

「やれやれ――」


 芝田は近くにあった椅子へと座ると――その長い足を組み、こちらを見下すように哂う。


「――その足りない頭に分かるように言うとだな――お前は反抗組織のボス“芝田”として、ここで死ぬ」

「はぁ!?」

「そして誘拐された羽柴社長は、本拠地で幽閉されたまま不慮の事故で死んでしまい……彼の意思を託されたわたくしが、会社の社長として就任する訳だ。――そうだな、今のわたくしはキリトと名乗っておこうか」

「なんだよその漫画のキャラみたいな名前はよ。あと、お前は魚臭い会社がイヤだとか言ってたじゃねーか!」

「お前のように社長本人が現場に出る必要は無い。会社の生み出す金は、わたくしが管理する――」


 その2人の会話に割って入るように、俺も意見をする。

 

「――不慮の事故って、どういう事なんですか」

「おやオダナカさんも居たんでしたっけ」

「いやオダナカもお前が閉じ込めたんだろ! 今の話はまぁ分かった――でも彼は関係ないだろ! 用事があるのがオレだけなら、彼は解放してやれよ!」


 芝田の言う通りなら、このままだと自分は殺されてしまうというのに、そんな状況でも他人の身の安全を第1に考えられるのはなかなか出来ないと思う――やはり社長になるほどの男はそれほどの器量があるという事か。


「関係は、大アリです」


 芝田はもったいぶったようにニヤリと笑うと再び両手を広げ、大げさに声を張る。

 

「お前はもちろん知らないだろうが、彼の持つコネは絶大! レオガルド王子が持つ第3騎士団の騎士団長アグリ。彼女はとても美しく、貴族はもちろん市井の間でも大人気だ。高潔にして美麗、そして剣の腕も立つとなればそれも納得だろう」


 今、なにか重要な情報を言っていた気がする――。


「次に元海賊にして騎士団特別水軍の頭であるジョニー・キッド。今は港町で回転寿司店を営んでいるが、海で戦えば無敵を謡われる多くの船員と船を所有している――特に海産事業をもっと広く展開していくには、彼の協力が必要不可欠だろう。ちなみに好物はオダナカが持ってくる日本酒らしいな」

 

 日本酒に関しては現状は彼と、彼の店にだけ卸している。

 そんな事まで調べていたのか――。


「他にも不確定情報だが、レジェンドクッキングマスター“リーエン”や漆黒の断罪者“レイゼン”とも交流があると聞く――」


 なんだかこそばゆい感覚に襲われる。

 しかしあの2人。そんな面白い通り名が付いていたのか。


「ちなみにわたくしが名付けた2つ名だ。カッコイイだろ?」


 ……彼、何歳なんだろうか。


「オダナカさんの名前を使ってコネを獲得するのが第1目標だ」

「確かにオダナカがすげーのは分かったけどよ、まだなにかあるのか? オレは全然わかんねーわ」

「お前そこまで無知とは恐れ入ったな! いいだろう、説明してやる」


 これは余談だが。

 世の中には、とにかく他人に説明したくてしょうがない人達が存在する。


 何かが間違っていれば、それを正さないと気が済まない。

 知らなければ、それを教えてあげないと気が済まない。


 そういった意味で、羽柴は天然の聞き上手とも言える。

 そういった意味で、芝田は天然の説明バカだ。


「まずだな――」


 長い長い芝田の計画内容の全容を、熱心に聞き入る羽柴をほっといてカップラーメンを食べる。

 このままでは完全に延びるし、冷めるし……ちなみに今食べているのはシーフード味だ。

 

 そのラーメンが食べ終わる頃――まだ説明は終わってなかった。

 

「――なるほどなぁ。お前が騎士団に、オダナカが犯行組織に捕まったって通報した訳か」

「そうだ。さらに! 今頃あのモナカがアグリに泣きついている頃だろう――わたくしの通報と、彼女の情報を下に――アグリはこの近辺の第5騎士団へ救助要請を行う」

「なんでだよ。オダナカは友人なんだから、アグリ本人が助けにくればいいだろ? 騎士団長ってすげーつえーんだろ?」

「だ、か、ら! アグリは騎士団長なんだから、上の命令無しに勝手に動けないって言ってんだろ! 第5騎士団と、それを所有する王女のメンツを潰すからだ」

「ほー、そうなんだ」

「そして、国境の近くにある町へ騎士団は巡回パトロールへとやってくる――どうせ国境を渡れるはずもないから、テキトーな仕事になるだろう」

「ふんふん」

「そこへわたくしの手塩に掛けて作った巨大魔獣が登場!」


 今度は立ち上がり、まるでその様子が脳裏に浮かんでいるのか――目を閉じながら優雅に語りだした。


「巨大魔獣はここの本拠地を潰すほどの大暴れ――命からがら逃げだした者達、それを追いかける魔獣。その様子を巡回している騎士団が目撃するッ」


 ここで後ろを向いてこちらに上半身のみを向けるターンを行う。今度は目を見開き、大げさに声を荒げる。

 

「しかぁし! 碌な装備も無い騎士団はこれに手も足も出ずに敗走――そこへ、正義の武装集団が現れるのだ」

「おー頑張れー」

「正義の武装集団は異世界の武器を使い、この魔獣を見事に撃退。かくして、その武装集団を束ねる善良な商人が異世界と日本の橋渡しとなり、騎士団へと強力な武器を販売し続け、商人は大儲けで一生安泰という訳だ」

「すげーなその商人。知り合いか?」

「わたくしの事だよ! ――はぁ、バカの相手は疲れるな」


 再び椅子に座り、元の足を組むスタイルに戻る。忙しい奴だ。

 ここの魔王反抗組織とやらのボスになったのも、いずれは武器を売り込む為のデモンストレーションだったという訳か。


「この魔獣との戦いは、わたくしがドローン搭載カメラで撮影し――他の騎士団にもその強さを見て頂き、王族の方々も『こんな強力な武器を持つ商人が仲間に居れば、魔王との休戦なんて辞めてしまおう』と考えるはずだ」


 熱の入って居る芝田の演説だったが、ここで聞き過ごせない単語が聞こえてくる。

 

「――戦争の再開……」

「そうですオダナカさん。やはり戦いがないと、武器も魔獣の自衛手段としてはそこまで儲かりませんからね――」

「……」

「お前……戦争なんか起こそうとしてたのかよ!」

「休戦などというのは本来、次の戦いまでの準備期間でしかありませんよ――まぁこれだけだとまだ弱いので、もう一手打ちますけどね」 

「まだ何かするつもりなんですか」


 芝田はいたずら小僧のような顔つきになり、自身の口元に人差し指を添える。

 

「そこはさすがに――トップシークレットです。しかし、騎士団の方々もサプライズゲストの前には度肝を抜くはずです」

「ここの本拠地も……」

「魔獣が偶然暴れ崩壊します。そろそろここの連中は邪魔なのでね――腰の重い魔王軍もさすがに鎮圧に動くでしょう」

「お前! 部下をなんだと思ってやがる!」

「駒ですよ。生かすのも殺すのも、王であるわたくしが決める事です――さて」


 芝田は立ち上がり、襟首を正す。


「長話をしてしまいましたが――わたくしも忙しいので、これで失礼します」

「おい芝田!」

「また様子を見に来ますので、では」

 

 そう言って説明するだけ説明して満足した芝田は、部屋から出て行った。

 残された俺と羽柴はしばらく黙っていたのだが――。


「――飯、食うかって……オダナカはもう食ってるじゃんか」

「はい。美味しかったですよ」


 投獄されて初日は、あとは横になって寝ているだけだった。


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