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26話 異世界の魔王軍事情その2(前準備)


 ここは世界の果てにあると言われる、いつもの魔王国。


 魔王の住む居城には、四天王の魔力により維持されている強固な結界が覆われている。

 この結界のせいで城のみならず城下町周辺まで、いつも黒い雲に覆われているのだ。

 しかしそこに住む魔族達は、生まれた時からこんな状態なので既に慣れっこである。

 

 そんな悠久より不変であると謳われる事もある魔王国。


 しかし最近、新たな動きがあった。


 なんと『炎焔(えんえん)のカルロス』が、魔王四天王の座を退任となると公式に発表がされたのだ。

 その理由は病気の療養だと発表されたが、魔王国領の様々な町や村では魔王による粛清が行われたのでは無いかという憶測が噂になっていた――。


 そういった事で魔王国内の民衆は、若干の不安と不穏な空気に包まれているのだが――噂の中心人物のカルロスはというと……。


 ◇◆◇



「な、なんでオレはこ、こんな格好させられているんですか……」


 元々40代男性の見た目であったカルロスはある日を境に、見た目も中身も10代の頃へと戻ってしまっていた。

 この謎の現象は未だ解明できず、魔法医は診断書(カルテ)を投げて「あと何十年もしたら元に戻るんじゃないですか?」とまで言う始末。


 燃えるような赤い髪に、活発で笑顔の似合う爽やかな少年。背中から生えている赤い翼も色艶が素晴らしく、魔王軍の女性陣からも好評である。

 しかし今の彼は――何故か少女が着るようなドレスを着せられ、髪もそれっぽくセットされていた――。


「いやー、ヒマそうだったから誘ったわイイケド、お外に出して見つかるとちょっと面倒そうダシ」

「今日は女子会だしねぇ。魔王様の奥様も来る訳だし、ちゃんと身なりは整えないとねぇ」

「だからって、なにも女の子みたいな恰好にしなくても……」


 カルロスは恥ずかしそうに、膝丈より長いフリル付きスカートを握りしめる。

 

「魔王様のご令嬢も来るノヨ。見慣れない男の人が居たらコワがっちゃうデショ」


 妖精魔族にして四天王が1人、『風霊(ふうれい)のフェリアス』はニヤニヤしながら腕組みをしている。

 彼女も普段の軍服のような服ではなく、落ち着いた緑色のキャミソールを着ていた。

 

「そうよぉ。だから可愛い服でお出迎えしなくちゃーねぇ」


 ゆったりとした口調で喋るのは、歓楽街の女帝というあだ名で呼ばれる事もある四天王の『水禍(すいか)のネーティア』である。

 こちらは紺色のシックなデザインのドレスを着ていた。背中は腰の下まで見えそうなくらい露出している。

 ネーティアはカルロスの顎に手を添えながら、目元や頬に簡素な化粧を施していく。

 

 なんのかんの理由を付けながら2人のオモチャにされているカルロスは、間近まで近づいているネーティアの顔を逸らし――たくても出来ないので、耳まで赤くなっていく。


「さ、最近魔王国に窃盗や不法侵入している人族の方も居ると聞きますし……その、やっぱ見回りとかしないと……」

「しばらくは暇を貰ったんでしょぉ? いいじゃない。文字通り、羽を伸ばせば」


 そんな話をしていたところで、ふと思い出したようにフェリアスが呟く。

 

「そういえば。この間、ゴルディアの部下が魔晶石の鉱山で人族の侵入者を見つけたらしいんだケド……」


 ゴルディアというのは彼女らと同じく四天王の1人。

 金鎧(きんがい)という2つ名の通り、金色の鎧を身に纏うサイクロプスの男性である。

 戦いとなれば、自ら部隊の先頭に立ち先陣を切る事もある猛将として知られるが、魔王国内での主な仕事は土木や建設業務。他には鉱山の管理などだ。

 

「鉱山って……結構奥の方じゃない? 今まで侵入者って言っても国境付近の町や村でウロチョロしてたらしいけどぉ」

「奥どころか、重要拠点だから入り口には簡易結界まで張ってるくらいダヨ。しかも不思議な話で……部下が、その侵入者を追いかけたら――」

「追いかけたら?」

「休憩所に逃げ込んだカラ、すぐにその後を追いかけて入ったノニ……誰も、居なかったみたいナノ」


 まるで最初から居なかったように姿を消した侵入者――。

 ゴルディアの話では、こういった報告がたまに上がって来るらしい。


「ゴーストかなにかと見間違えたんでしょうか」

「あの鉱山に浮遊霊が入り込むとは思えないし……なんとも不思議な話ダネ」

「消えた、ねぇ――」


 何かを思案するように化粧をする手が少し止まるネーティアだったが――。


「ネーティアお姉さん?」

「なんでもないわ。ほら、これで髪に花飾りを付けたら――」

「ワァ。もうネーティアの店で、今日からお客が取れそうなくらいカワイイヨ」


 ニシシっとイタズラっぽく笑うフェリアス。

 

「お姉さんのお店って? 何かやってらっしゃるんですか?」

「そうねぇ……元気になるお店、かしら」


 意味深な事を言われ、頬に手を当てながら小首を傾げるカルロス少年。

 その仕草は、まるで女の子のようでフェリアスはついに吹き出してしまった。


「ぷぷっ――か、完璧ダネ。アー、そろそろ時間だし、イコッカ」

「じゃあ、行こうかしら――カルロス君」

「は、はい」


 カルロスはネーティアに手を引かれ、3人は衣装店を出るのだったが――。


「――なにもなければいいんだけど」


 ネーティアが空を見上げると――天気の悪い空は、相変わらずであった。


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