24話 異世界の魔法図書館へ行く5
「ではペリコさん、再テストを開始しますが――その方々は?」
ここは魔法学校内の運動場のような場所らしく、ここだけ薄い膜のようなモノで覆われ、砂などはもちろんキツい日差しも入って来ないようだ。
地面は砂ではなく、土や岩なども混じっている荒れ地のような環境だ。
「こ、ここ今回一緒に魔法書捜索を手伝って頂いた方々です……ニャ」
「あらそうなの。人間に頼むなんて、珍しい事するわね……まぁいいわ」
ペリコと教師らしき女性も、俺が魔法使いと言われたらイメージする服装と、イメージがぴったり合うローブを着ている。
魔法師としての正装はこちらの服装なのかもしれない。
「ではいきますよ――」
女性教師が地面に石を投げ、呪文を唱える――。
「大地の魔力よ、力ある言葉と共にその大いなる力を人と変え、我が前に現れろ――顕現」
その石を周囲の岩が飲み込み、たちまち2mはあるかというほど大きな岩人形――ゴーレムとなった。
「では、再テスト開始です!」
「ごごごごッ」
それが鳴き声かは分からないが、奇妙な叫び声と共にゴーレムはペリコ目掛けて走り出した。
「我が魔力よ、かの者を捕らえよ――顕現!」
まずは光弾を杖から放ち、ゴーレムの足を狙う。
ゴーレムは直進しかしてこないので、これはそう難しくないだろう。
「ゴゴッ!?」
作戦通り、ゴーレムの両足は拘束され、顔面スライディングのような形で滑っていく。
「よし。大地の魔力よ、力ある言葉と共に大いなるその姿、我が想いに答えよ――顕現!」
まず近場の岩から“三角錐”を創り出す。
さらに俺が教えたような溝まで再現できている。
「風の魔力よ――」
それに風の魔法で回転させる。
その回転を維持しながら、三角錐の底辺――つまりお尻の部分に、火の魔法で火球を創り出す。
「火の魔力よ、力あるその姿、爆ぜてみせよ――顕現!」
ボォンッ!
「きゃあ!?」
爆発した勢いに乗って三角錐――つまり回転したドリルは弾丸のようにゴーレムの心臓部に、突き刺さった。
しかし、それでも硬い岩盤を砕きコアを破壊するには至らなかった。
「ゴッ!?」
「我が魔力よ、肉体に留め、強化せよ――顕現!」
だが、ドリルだけではコアまで届かないのも織り込み済みだ。
最後は――彼女が最も得意とする魔力コントロール。つまり身体強化魔法により、鉄のように硬くなった肉球で、ドリルへダメ押しの一撃を与えるのだった。
◇
「はぁ……まぁ一応身体強化魔法も、魔法ではありますけどねぇ」
「はいニャ……」
「魔法師として頑張りたいなら、これからもちゃんと魔法の勉強をやりなさい。いいですね」
「――という事は?」
「まぁ課題はクリアしてるし、魔力コントロールはちゃんと出来ているようだし……いいでしょう。ペリコさんの進級を認めます」
「や、やったニャ!」
「やったなペリコ!」
モナカはまるで自分の事のように飛び跳ね、ペリコと抱き合って喜びを表現した。
「さすが魔法書を食べただけのことはあるなぁ! 凄い魔法だったぜ!」
「ありがとうニャ! これも全部モナカちゃんとオダナカさんのおかげニャ!」
これでモナカの魔法を見たいという欲求も引っ込んでくれるだろう――。
と、ここで話が終わればハッピーエンドだったのだが。
「――ちょっと待ってください、ペリコさん」
「はい?」
「貴女……魔法書を、本当に食べちゃったの?」
「え? でも先生が……」
「あれは――魔法書を食べるくらいの勢いで勉強に打ち込めという先代校長の御言葉で……」
「えっ、じゃあ魔法書のシチューの作り方のレシピは……」
ペリコは懐から古びた本をを取り出す。
「それは、どこかの学生が冗談で作ったレシピです――昔から何故か学生の間で出回ってて、困ってるんですの」
「――でも実際にペリコは魔法使ってたけど」
モナカが遠慮がちに教師に聞くと、
「下級魔法は全部1年で習う範囲です――まさか、覚えていないんですの?」
「は、はは……」
モナカは乾いた声で笑い、ペリコは目に見えるくらいの汗を流しながら、モナカを見た。
「ご、ごめんニャさい☆」
「ペリコぉぉおお!」
モナカが全力でペリコの身体を揺さぶり叫ぶ。
願わくば――腹を壊さないことだけが、唯一の望みであった。
※実際の革製品を食べるのは絶対やらないで下さい。




