24話 異世界の魔法図書館へ行く3
俺達は町で出会った猫獣人の学生に連れられ、魔法学校の敷地内にある図書館へとやってきていた。
受付で色々と手続きを済ませたペリコは、アンティークな扉の前に立つとダイヤルのようなモノを回す。
モナカは興味深そうに部屋の中を見て回っているが、俺は本題へと入る。
「それで、私達にお願いとはなんでしょうか」
「実は……」
ぺリコは申し訳なさそうにモジモジとしていたが、意を決したように。
「ワタシが食べる魔法書を、一緒に探して欲しいんですニャ!」
「え?」
魔法書を食べる? そんなことが出来るのか?
モナカも微妙そうな表情を浮かべていた。
「食べるってどうやって……」
「一緒に来て貰えれば……あっ、寒いのでそこのコートを着て下さいニャ」
壁に掛けられていたコートを拝借して着る
そして、ペリコと一緒に扉の中へと入ると――。
「わぁーお」
「これは――圧巻ですね」
まず目に入ったのは3階建ての建物くらい高さの天井。そこまで届く、大きな本棚が立ち並ぶ姿だ。
大部屋の端は全然見えず、あの天井近くの本はどうやって取るのだろうか。
さらに外とは打って変わって、ここは冷房のような魔道具でもあるのか――ひんやりと涼しい。いや、どちらかいえば寒い方だろうか。
「――実は、この間の期末テストの実技……赤点だったんですニャ……」
ぽつりぽつりともらしていくペリコ。
「それで明日、その再テストがあって……もしそれでダメなら、進級できないんですニャ……」
なるほど……赤点か。それは確かにマズい。
しかし、魔法書を食べる? 普通に勉強する方が良いのではないだろうか。
「それで、先生から『魔法書を食べるくらいやらないと貴女は合格できないだろう』って……魔法書を探して捕まえるのも補習の内らしいニャ」
「あの、ペリコさん――もしかして、魔法書を食べると知識が身につくのですか?」
そう聞くとペリコは顔を輝かせ、
「そうですニャ! 一時的ではありますが、魔法書の内容を食習する事ができるニ――そうこのレシピ本に書いてあるニャ!」
その昔、日本では辞書の内容を覚え、そのページを食べるという事を行った偉人が居るという。
それは本当に行ったのか、ただの都市伝説なのかは分からないが――。
「その補習、アタシ達が手伝っても大丈夫なのかよ」
「はい! 魔法学校の生徒、及び学校関係者以外の人にならサポートをお願いしても大丈夫な事になってるニャ……でも、実はこの町って魔法学校のOBの人も多くて……まだここに来て1年目で、知り合いも少なくて……なんなら友達もあんまり居なくて……ニャ……」
喋る度に気分が沈んでいくのか、白い耳と尻尾がどんどん垂れ下がっていく。
「中間もギリギリで……落ちこぼれのワタシが魔法師なんて夢見るのがおこがましかったんニャ……」
「いやいや、そんな事ねーよ!」
モナカが彼女の手を握り、元気づけるように顔を近づける。
「この学校に入るのも結構難しいんだろ? 1年頑張れたんだし、ここで辞めたら全部無駄になるよ」
「モナカさん……」
肉球のある手を執拗にモフモフしてなければもっと決まっていただろうなと、少しだけ思った。
◇
「それでサポートが必要という話でしたが……本を持って来ればいいんですか?」
「いえ。食べる本は決まっているんですけど……あっ、そこの左手の扉ですニャ」
部屋の中を壁沿いに歩くこそ十数分。
本棚と本棚の間に、背の低い扉を発見する。
四つん這いになりながらその扉をくぐると――。
「――これは」
「すげーな」
その部屋の中も広い空間になっており、壁際に本棚が並んでいるのも同じなのだが――今度は本棚の中に本が入って居ない。
その広い空間の中を――まるで鳥のように羽ばたいて本が飛んでいるのだ。
正直、何冊飛んでいるのかはまるで分からない。
「いよいよ魔法図書館って感じ!」
「もしかして、この中から目的の本を探すんですか」
「はい……これを明日の開始時間までに見つけられないと、ワタシはそのまま再テスト受けないといけなくなるニャ……」
「再テストって何やるんですか」
「えっと、教官の出した魔法ゴーレムを倒す試験ニャンだけど……そんな強力な魔法、まだワタシ使えないニャ」
それでこの中から強力な魔法が書かれた本を探し出すのか――。
サポートが認められている理由が分かった。
「でもアタシ達は魔法使えねーよ」
「あっ、それはですね……」
腰に提げている小袋の中から、いくつかの小瓶を取り出す。
そのフタを取り、逆さに振るうとポンッという音と共に虫取り網が出て来た。
「うわすっげ」
「この網を使って下さい」
「もしかして、この網に何か魔法が掛かってんのか!?」
瞳をキラキラさせて尋ねるモナカだったが、
「――いえ、普通の網です」
「……そっか」
申し訳なさそうに謝るペリコ。
「では気を取り直して……ワタシが魔法で拘束して落としますニャ。多分床に近くなったところで拘束が解けるので、それまでに捕まえてくださいニャ」
「よーしバッチコーイ」
「こちらは準備OKです」
ペリコは懐から取り出した小さなステッキを振るうと、たちまちペリコの背丈くらいある杖に早変わりした。
「いきますニャ!」
杖から光弾が高速で射出され、飛んでいる魔法書を――早速1冊捕らえた。
光弾がぶつかった魔法書は光のロープで縛られ、こちらへ落下してくる。
「てやッ!」
これをジャンプして、網で上手く捕まえるモナカ。網の中で、拘束が解けた本が暴れまわる。
「うわっ、活きがいいなこの本」
「ありがとうございますニャ!」
ペリコが近づいてきて、本の表紙に手を当てる――。
すると本は動きを止め、ただの本へと変わった。
「――すいませんニャ。これは違いますニャ……」
「まぁいきなり1発目から当たり引くとは思ってねーよ。次行こうよ」
「はいニャ!」
それから何度かモナカが捕まえたり、俺が捕まえたり――時には逃したりを繰り返し――。
「こ、これで――何冊だっけ」
「確か40冊くらいですね……」
まだまだ飛んでいる本はたくさんあり――あの中に目的の本が本当にあるのか疑わしくなってくる。
「もう疲れてきたニャ……」
「そもそもどんな魔法を探しているんですか」
「今回の補習だと岩のゴーレムが出てくるから、それ破壊できるような中級攻撃魔法ニャ……上級は魔力コントロールできないと自爆しちゃうし、初級だとコントロールは完璧でも威力足んないニャ」
「岩のゴーレムをバラバラに壊すの?」
「心臓部にあるコアを壊せばいいニャ」
その話を聞いて、俺とモナカは顔を合わせる。
「……正直、中級のド派手な攻撃魔法も見てみたいけど」
「このままだと朝まで掛かっても終わりそうにないですし……」
「えっ、なにかいい案でもあるニャ?」
「まずは、ペリコさんが使える魔法を教えてください」
俺達は顔を突き合わせて、詳しく話を聞いていく。




