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ハロウィーンディ

作者: 山村

投稿時期とは季節外れではありますが、とある十月末日に書いたものです。

「ココ~! トリックオアトリート!」


 店じまいの準備をしていたココの店を襲ったのは近所に住む子供たちだった。

 ある子供は使い古しのシーツに穴をあけたものを赤間から被って、ある子供は母親の御下がり魔女の伝統衣装を身に纏い、ある子供は物語に出てくる怪物の格好をしているからして、どれが誰かは特定できないがどことなく聞いたことのある元気な声がするのは確かだ。

 突如のことで呆気にとられたココに声を掛けたのは床の掃き掃除をしていた使い魔のムムである。


「ハロウィーンだよ」

「あぁ、今日がそうだっけ」


 漸く合点がいったココは十月も半ば頃思い出したようにジャック・オ・ランタンを拵えて店先に飾っておいたことを思い出した。

 子供たちはまだかまだかと手に持ったお菓子入りのバスケットを差し出している。


「あー、ちょい待ち。ムムお菓子あったっけ?」

「勿論。ココは忘れるだろうから作っておいたよ」


 呆れた表情の使い魔が袋に小分けされた手作り風のクッキーを主人に手渡す。そして可愛らしいリボンでラッピングされた小袋はそのまま子供たちの持つ子供たちのバスケットの中へ吸い込まれていく。


「ありがとー!」

「ココありがとう!」

「ムムもありがと~」

「またザザと遊ばせてねー」


 小さな怪物たちは満足そうに手を振りながら店を後にする。台風一過のような静けさが戻りココはレジ締め作業を再開。それを観たムムも立てかけた箒を手に取り掃き掃除を再開させた。


「今日だったかー。いやはや、失念してた」

「ココ、最近は特に忙しかっただろうから忘れてると思って。昨日の夜焼いておいたんだよ」

「いやー、優秀な使い魔がいて助かったよ」


 この地域では特に先祖への感謝の気持ちを忘れないようとこの行事は大切にされており、ココの家系も例外なく大切にしてきた。しかしここ数週間は仕事に忙殺されて日付がすっかりと忘れていたのだ。

 レジを締めて、窓から通りの様子を窺えば真偽不明の死者が行きかっている。彼女が店じまいをするのはいつも夕方、社会人が退社する少し前だからこの時間帯は子供が多い。

 死者の魂が一時的に帰郷しやすいように皆が死者の格好をして悪戯か菓子かを尋ね回っている。昔は厳かな行事だったがここ数十年で今の賑やかな様相を呈するようになったのだ。賑やかだけれど祭りの主旨は失われず、コスプレをして騒ぐだけのハロウィンを目の当たりにしたココだからこそ思う理想のハロウィンである。


「うん、この中にエキストラ・テレストリアルがいても分からないね」

「エキス……何それ?」

「映画」


 修業時代に友人と見た古い映画の登場人物の名前だ。彼は確かハロウィンの日にシーツを被っていて、町の子供と間違われていた。

 もしかしたら本当に死者の魂が紛れいているのかもしれないな、なんて魂を扱う店も在るこの町に住んでいる者らしからぬ発想に至ってしまうのは数年間別の世界で修業をしていたせいだろう。


「……ムム。確か捨てる予定のシーツ、まだ捨ててないよね」

「うん。まだ捨ててないけど……まさか」

「そのまさか。お前には恐ろし~いゴリラの怪物に変身させてやろう」

「今の流れでゴリラなの!?」


 賑やかな音は夜に向かって増えていく。子供の時間が終われば今度は大人の時間が訪れ、この町のハロウィンは朝まで続く。

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