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ぼくのドッペルゲンガー②

…………。


僕はとても恵まれている。


同時にとても不幸でもある。


資産家の父のおかげで何一つ、とはいかないけれど不自由なく暮らせてるし、言えば欲しい物はなんでも手に入る。


けれど事故の後遺症で運動を禁じられ、家の中でも杖か車椅子の補助なしには移動できない。


頭を打ったせいで味覚がなく、他の五感もとても鈍い。


身の回りの世話は家政婦がやってくれるし、幸いな事に暇を潰すための蔵書はいくらでもある。


けれど母は幼い頃に他界しているし、父は仕事でほとんど家には帰らないから、つまらない日々が繰り返される。


事務的に身の回りの世話をする家政婦と、淡々と授業を行う家庭教師。


常に孤独感が僕の中で燻っていた。


定期的に病院にも通わなくちゃいけないし、僕の人生には家と病院とその移動中の記憶しかない。


事故の後遺症のせいだし、病院に通わないといけないのはしょうがないと言えばしょうがないけれど、時々うんざりとした気持ちになった。


僕は、なんで生きてるんだろう。


きっと、事故にさえ遭っていなければ比較的幸せな人生だったはずだ。


学校に通って、友達がいて、行きたい所に行けて。


今の僕は何をするにしても誰かの補助を受けないといけない。


移動するのも、着替えるのも、食事をするのも。


みんな、僕の事を面倒な物を見るような目付きで見ている気がする。


仕事だから、そういった態度は隠しているつもりなんだろうけれど。


無機質な日々。


あまり丈夫ではないし、いつ不調が出るかも分からないこの体が恨めしい。


広くて立派なだけの屋敷を飛び出して、どこか遠くへ行きたかった。


誰でもいいから、触れ合いたかった。


毎日が味気なくて、本当につまらなかった。


…………。


「今日も勉強、勉強、勉強ばかりで、つまらない1日だったよ。同じ1日をループしてるんじゃないかって思ったくらいさ」


いつからか鏡に向かって話しかけるのが日課になっていた。


自問自答、一方通行な言葉の羅列。


鏡に映る僕の顔は、屋敷にいる誰よりも無感情で、無表情だった。


無機質な日々に、心までが固まっていくようだった。


時間になるか、ボタンを押せば手の空いた誰かがやってくる。


けれどそれ以外はずっと一人だ。


鏡に映った自分を話し相手にしてしまうくらいには、僕は孤独だった。


鏡に映る自分の顔を見る。


ずっと見ていると段々と他人のように見えてきて、いつか勝手に話しかけてくるんじゃないか、なんて。


また脳裏に、いつか見た彼の顔が浮かぶ。


鏡の中の僕と、いつか見た彼の顔が重なる。


『大丈夫、近いうちに会えるよ』


そんな声が聞こえた気がした。


いっそ狂ってしまった方が楽かもしれない、そんな風に思った。

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