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Marginal Man  作者: 志藤天音
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4時間目 国語 マツ先生

 1-Aの教室が割れるかと思うほどの叫び声に包まれた。慌てて教室の外に出た。

 静まるのを待つのにかなり時間がかかったと思う。実際はそれほど経ってなかったのかもしれないが、生徒たちの興奮がおさまるのを待つ時間が苦痛だった。


 また入ったら騒がれるか? 授業にならないな。まあ、もともと補習みたいなもんだしな。この時間は俺の好きに使っていいっていうことだもんな。……じゃあ俺じゃなくてもよかったんじゃないか?


 一人、廊下であれこれ思いを巡らせていた。気持ちを落ち着かせて、もう一度教室に入った。


 「えー、いつも古文を担当している秋山先生は出張の為、今日は私が代わりに担当します。松井です、よろしく」

 号令の後、早口で挨拶した。


 生徒たちは興味津々で顔を凝視している。ヤバいな、何かバレてるのか? 俺が何者か、生徒たちは知っているのか?


 「あー! この前にしやんとアサミが言ってた先生だ!」「何だっけ、にしやん変なあだ名つけてたー」「うまづ……ら」「馬面!」「ウケるー」「やだー、かわいそう」「マジウケるんだけど」……

 キャッキャキャッキャまた始まった。耳が壊れそうだ。この騒音、かなりうるさいのに内容が全然頭に入ってこない。この場で集中して、騒音の中で授業を始めようと思った。


 「秋山先生から聞いているのは、今『枕草子』をやっているということ……教科書の範囲は……終わってるみたいだね……。じゃあ、細かい文法の復習は秋山先生が帰ってきたらやってもらうことにします。急に教え方変えると混乱しそうだから、今日は作業をしてもらおうか」

 『枕草子』は誰もが知る清少納言の作品。随筆のジャンルであり、比較的読みやすい作品だと思う。女子高生が学習するには入りやすい、ということで教材に選ばれている。

 お馴染みの「春はあけぼの」で季節や時間帯を、そして草木や虫、天候などから「をかし」なものを書き連ねている。

 本来なら文法の知識を教えるのだが、そうなると一回では終わらないし、すでに一通り秋山先生が指導し終えている状態だったので、補講は秋山先生にもう一度やってもらい、生徒たちには俺から課題を出すことにした。

 「今回は君たちが清少納言になったつもりで、身の回りの『をかし』を書いて欲しい。文語で書くのが望ましいですが、自信がない人は口語体で書いても構いません。いくつ書いてもいいよ。今日これから書いてもらうけど、時間が少ししかないから次の秋山先生の古文の時間に回収してもらいます。私が責任持って評価します」


 「えー、難しい」「無理ー」生徒たちは口々に文句を言う。でもそう騒いでいるのは最初だけで、なかなか真剣に考えるものだ。

 「本当に何でもいいんだよ。日記みたいに書いたっていいんだ。自分で興味深いことを書いてみて」この学校は自由な校風であり、校則などは基本的に生徒たちが決める。「自ら調べ、考える」という校訓の通り、どんな時でも生徒が主体となる。我々教員は生徒一人一人が蒔いた種を大事に育てる役割を担っている。それぞれどんな感覚を持っているのか、それを知ることは俺にとっては「をかし」なのだ。


 「先生ってどこの大学出身?」「何歳ですか?」「結婚してますか?」授業とは関係ない質問が飛び交い始めたので、仕方なく残りの数分は自己紹介タイムにした。


 「えー改めまして松井尚徳です。『ひさのり』って読みますけど、覚えなくていいですから。マツ先生……いや、『馬面マツ先生』だっけ? 西原先生にそうやって呼ばれてます。 西原先生とか前田先生と同じ日東大出身です。歳は34歳。大学卒業してからすぐにこの学校で教師をして今年で12年目です。結婚してます。小学一年生の息子がいます。他に質問ありますか?」

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