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Marginal Man  作者: 志藤天音
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シゲの思い

 スポーツフェスティバル。今年も体育館を借りての開催となる。

 二年生はダンスを披露するので、遅くまで練習したり衣装や装飾品の打ち合わせと制作に追われていた。みんな自分の担当する仕事を真面目にこなしてる。偉いよ。


 当日、俺は外から全体を監視していることが多かった。というのも今年は若手の先生たちが多いので、彼らに準備作業を担当してもらって俺はサポートするだけになってしまったからだ。


 あそこにいるのは、数学科の塩谷くんと化学科の井上くんだ。戯れ合いながら仕事しているのを見ていると、出会った頃のにしやんとマエちゃんみたいだな。

 もう一人、物静かに作業しているのは大山くんだ。ナガちゃんみたいなタイプだな。彼も数学科だ。


 俺もこの学校に勤めてもう14年だ。あっという間にアラフォーと呼ばれる年齢になってしまった。時が経つのは早いもんだな。バンドを結成したのも、ついこの間のように思うんだけど。


〜〜〜


 「へー、シゲさん、ピアノ弾けるんですか。背が高くてイケメンでスポーツ万能でピアノが弾けて。最強じゃないですか、神様は不公平だな」

 にしやんがこの学校に赴任してきた時、俺とマエちゃんとにしやんの三人でよく食事をしていた。

 マエちゃんが学生時代からバンドをやっていることから、音楽の話になったのだ。

 好きな歌手とかジャンルについて話をしていた時に、俺がピアノを習っていたことがあると言ったことから始まった。


 「シゲさん、作曲とかしたことありますか? 今でもピアノ弾いてますか?」

 マエちゃんが随分熱心に話しかけてくる。

 「うん。最初はさ、猫背を直す為にピアノを始めたんだけどね。ピアノってクラシックばっかり弾かされてつまらなかったんだ。でもピアノを弾くことは楽しくて。結局ピアノのレッスンは辞めたんだけどさ。そのあと独学で弾きたい曲を弾いたりして、適当にジャカジャカ音を鳴らしてたらなんとなく曲が出来るんだよ。それが面白くてさ。今でも家にピアノあるし、たまに弾いてるよ」

 「へー、ギターで作曲するみたいなやり方ですね。珍しい」

 「マエちゃんはフォークソングが好きなのか?」

 「俺はもともとビートルズが好きで、基本的にロックが好きなんですけど、俺が大学入った時には軽音楽部というかバンドを組んで演奏するっていうサークルが無かったんですよね。だから仕方なくフォークソング同好会に入ったんですよ」

 「なるほど、でもそこで趣味の合うメンバーに会えて良かったよな」

 「はい。まさかそこでビートルズのコピーとか、ロックテイストの音楽をやるとは思いませんでした」


 「にしやんは? 何か音楽やってたのか?」

 「俺は親父がボクサーだった影響でボクシングをやってきたから、楽器とは無縁ですよ。うちは貧乏だったからそんなものは買えないですしね」

 「そうか……苦労したんだな。働きながら大学通ったって言ってたもんな」

 「はい。でもそれも今では良い思い出ですよ。音楽の経験は無いけど、歌うことは好きでした」

 にしやんとは何度かカラオケに行ったことがあるが、声がいい。


 「なあ、俺たちでバンド組んで曲を作ってみないか?」

 勢いで言ってしまったが、この三人で何か一緒にやってみたくなった。

 別にめちゃくちゃ頑張って練習して大会に出るとか、誰かに披露するわけではなくて、趣味として始めてみようと提案した。


 それで月に一回か二回、集まって練習した。曲もある程度出来て、形になってきたところで、マエちゃんのバンドのベースの永井くんとドラムの池田くんに来てもらって音を合わせた。


 やっぱり形になると面白い、もっとやってみたいと俺たちは思った。

 そして、職場で追加メンバーを探そうということになって、マツ先生とナガちゃんが加入した。

 この二人を入れるのに苦労した。絶対にこの活動を生徒たちに言いたくないとか、プライベートで関わりたくないとか、今では考えられないぐらい気難しい二人だったから。


 そうやって集まったメンバー。最初はおかしな組み合わせだったけど、みんな根が真面目だからめちゃくちゃこだわりが強かった。

 地道な練習を積み重ねて、名曲もたくさん出来た。

 ちょっと俺たちの力を試してみようと出した曲が話題となり、俺たちのバンドが広く知られるようになった。

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