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Marginal Man  作者: 志藤天音
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track_2 wake up

 『うちの学校って運動部はあまり強くないけど、いつか全国大会とか行くようになったら歌いたい曲を書いてみたんだけど、どうかな。FIREと合わせて聞いたら胸焼けするかな』

 バスケ部の顧問でもあるシゲが、メンバーにファイル付きのメールを送った。学生時代に日本代表にも選ばれるほどの選手だったのに、試合に負けてばかりのチームの顧問をしている状況にもどかしさを感じているのだ。

 もともとスポーツが盛んではない学校なので、部活の顧問もほぼ名前を貸すだけなのだ。部活というより同好会といった感じだ。でもどうせやるなら本気でやりたいなとシゲはずっと思っている。


『wake up』

何が俺に生きがいをくれるんだ?

どうすればアイツは目覚めるんだ?

目の奥に輝く光を見たいんだ


言いたかったことがあるんだ

魂を込めて歌ってみるよ

決して孤独にはさせないさ


俺にはアイツが必要なんだ

お互いを信じているのさ

一緒に戦おう

そして見つけるのさ

魂に眠るものを


知りたいことは沢山ある

行きたい場所も山ほどある

全ては風向き次第なのさ


だって俺たちは信じ合っている

信じているのさ

お互いに必要なのさ

一緒に見つけよう

一緒に戦おう



 歌詞は暑苦しいものだったが、FIREとは正反対に爽やかで軽快なリズムだった。デモの段階で入れられているシゲの歌声が、より一層爽やかさを引き立てていた。


 『これはだいぶ爽やかな曲だから、マエちゃんが歌うか? マジで応援歌で使いたいな。サッカーにも合うし、受験生に向けても合うよな』NAOが絶賛している。

 今年はサッカーのワールドカップが開催される。サッカー少年の子どもを持ち、また受験生の担任でもあるNAOは、さまざまな場面での応援歌に使ってもらいたいと思っている。

 『AメロBメロはにしやんで、サビは俺が歌いましょうか? 最後の部分リフレインでフェードアウトするか、何度か繰り返して余韻持たせて終わるかって感じにしてみます?』サトルが提案する。

 『じゃあ、その2パターンで作ってみるよ。マエちゃんとにしやんのデュエットのような、コーラスの掛け合いのような感じにしてみるね。また出来たら送るわ。おやすみ』


 後日、シゲの自宅にメンバーが集まった。シゲに3人目の子どもが産まれたのでお祝いと、レコーディングをする為に。シゲはバンドの為に大枚叩いて自宅にスタジオを作った。以前はよくメンバーが作業場とスタジオに籠りっきりということもあったが、家族のことを考えて、大事なレコーディングの時だけ集まることになった。

 「おめでとうございます、シゲさん、晴子さん。今度は女の子ですねー、可愛いですね」みんなメロメロだ。

 「陽太……長男が晴子にべったりでさ。寝る時も一緒なんだよ。俺はいつも次男の幹次と寝てたんだ。晴子のこと取られた感じがしちゃってさ……ヤキモチみたいな……そしたら女の子が産まれちゃった」昔からラブラブな夫婦だったが、より一層ラブラブ度が増しているような感じがした。シゲは冗談混じりに話していたが、バンドメンバーは聞いていてお腹いっぱいになった。

 「じゃ、シゲさん。そろそろレコーディングいいすか?」耐えきれなくてHIROがレコーディングを促した。


 以前作った『wake up』をアレンジして、ユウジとサトルの掛け合いの形にした。

 力強さと優しさが合わさった曲は、何度も繰り返して口ずさんでしまうほどにキャッチーな感じに仕上がった。

 「オーケー! 素晴らしい!」シゲは、NAOが天を仰いだのをチラッと確認して、オーケーを出した。

 「またもや名曲出来ちゃいましたね、俺も負けてられないな」サトルも満足気にそう言った。

 「にしやん、うっかり学校で口ずさまないように気を付けろよ」HIROがユウジに注意喚起する。

 「おー、俺もそう思ってたところだよ。そう言うナガちゃんも、マエちゃんも気を付けような」ユウジはちょっと自信なさそうだ。

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