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Marginal Man  作者: 志藤天音
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track_1 FIRE

 「マジでにしやん、ヤバいから。入学式の時の目つき。あんなにジッと見つめて怪しいだろ」

 「そんなのナガちゃんに言われたくないよ。生徒がナガちゃんに取って食われそうな感じだったじゃん」

 全くイメージの違う二人がお互いのことを言い合っている。

 「まあまあ、今日は久々にメンバー揃ってリハーサルなんだから、こっちに集中しよう」

 「オーケー、最初の音出しでにしやんのシャウト入れるか決めるわ」

 年長組のNAOとシゲが仕切ってリハーサルが始まる。今日は新曲『FIRE』のレコーディングに向けてのリハーサルだ。普段なかなか集まる機会がないので、入念な打ち合わせが必要だ。


『FIRE』

好きなように生きろよ

お前の人生なんだから

生きるとは生き尽くすこと

一度きりの人生だから


俺は空を飛びたいんだ

だからそこに連れてってくれよ

お前と一緒なら

俺はなんだってするぜ


全て出し尽くせ

燃えてみろ 炎のように

灰になるまで

そうさ 灰になるまで



 「形にすると、だいぶ熱いロックになったな。これは戦隊モノのテーマソングになりそうだ」 NAOが汗を拭きながら言った。かなり激しいビートを刻むのに、だいぶ体力を消費した。

 「にしやんらしい曲だよな。これ以上は暑苦しくなるから、シャウトはやめとこう」

 今回はユウジが入学式で感じた思いをメンバーに伝えて、シゲが作詞作曲した。二人の男児の父でもあるシゲは、燃える男のユウジと、戦隊ヒーローを重ね合わせてしまい、このような激しい曲になってしまった。


 「これはライブで盛り上がりそうだな。シゲさんありがとう!」イメージ通りの曲が出来て、ユウジは満足だった。

 「今回の曲マジ難しいっすわ。ベース忙しくて……ベースに限らずどのパートも大変っすね」

 「俺こんなに指つりそうになったの初めてかも。案外難しいんだな、この曲」HIROとサトルはあまりのプレイの難しさに衝撃を受けたが、もっと練習してたくさん演奏したいと逆にワクワクしてきた。

 「凄いパワーのある曲だな。これはマージナルマンの代表作になるよ、うん、間違いない」

 NAOは満足な曲が出来た時の達成感に浸っていた。そういう時は決まって天を仰ぐのだ。

 シゲはその様子を見てようやく納得し、一言こう言った。

 「よし! じゃあ飲みに行こうか!」


 スタジオ近くの個室居酒屋で、メンバー揃っての食事会。今後のスケジュールの打ち合わせもする。

 ザ・マージナルマンは、同じ学校に勤める教師たちで結成したバンドである。しかし、生徒たちにはもちろん、学校にはこのメンバーでバンド活動をしていることは一切伝えていない。

 近頃は10代を中心にジワジワとその名が知られてきたようで、メディアにもたびたび登場するようになった。しかし、ライブ活動の時からずっと顔出しはしていないので、彼らが学校の先生だということはまだ知られていない。


 「この前職員室でシゲさんと喋ってたところを生徒に見られて、シゲさんのこといろいろ聞かれちゃいましたよ」サトルは先日の放課後の話をした。

 「いつも俺『シゲさん』って呼んでるから、つい生徒たちにも『シゲさん』って言っちゃって。焦りましたよ。シゲさんの苗字も一瞬忘れちゃって……」

 「確かに、俺らバンドネームと実際呼び合ってる名前違うからな。にしやんとかナガちゃんとか。これからバンドのフリートークの時には気をつけないとマズイよな。特にテレビに出る時とかは」

 「だからこれからもメディアにはあまり出なくていいんじゃないっすかね。俺、その辺うまく出来る自信ないっす」HIROがそう言った。

 「そうだな。もともと顔出しもしてないんだからテレビに出る時も収録出演とか、あまり喋らないような感じでいこう」NAOが方向性を決める。

 「俺たち、喋るとバレそうだしな。特ににしやんなんか、すぐわかるもんな」

 「俺、生徒たちに歌うの好きだって言ったけど、歌声でわかっちゃうから今年は生徒の前で一度も歌ったことないや」

 普段からよく喋るサトルとユウジだが、メディアでは寡黙なキャラクター設定だ。ライブでは年長組のNAOとシゲが積極的に進行する。

 

 「最後にもう一度確認するぞ。学校では俺たちがバンド活動していることは絶対に言うなよ」

 リーダーのNAOの言葉で、メンバーはより一層気を引き締めた。

 

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