何故かマージナルマン(2/2)
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翌日からは各自ホストファミリーの家でホームステイとなる。イギリス南西部のイーストボーンという町に滞在する。平日はスクールに通い、土日はそれぞれ思い思いに過ごす。
にしやんや、ツアコンの直美さんもホームステイすることになっている。
ただ、にしやんは別の仕事があるために、週末はロンドンで過ごすということをホストファミリーに伝えている。もちろん生徒たちには内緒だ。
引率者を受け入れるファミリーだから、こういうことにも対応してくれる。
つまり、週末はバンド活動をするということだ。
他のメンバーとはリモートで打ち合わせをする予定だった。
ところが、にしやんが打ち合わせの為に訪れたロンドンのスタジオに入ると……
「よお、にしやん。俺たちも来ちゃったぜ」
なんと、何故かマージナルマンのメンバーが全員集合していた。
ちょうど春休みに入ったので、合流することになったのだ。にしやんには秘密にしていた。
「おー、すげーサプライズ! 全然知らなかった。言ってくれよ!」
驚きながらも喜びを隠しきれないにしやん。
「これから俺らはロンドンにいるから。ホームステイが終わってからフランスとイタリアに行くんだろ? その頃に帰国する予定だから」
「ロンドンでライブを4公演。その中に配信ライブが1本含まれてる。それとは別に音楽番組に中継で出演することになってる。結構ハードスケジュールだぞ。体調管理しっかりな」
マツ先生とシゲさんが、今後の予定を説明する。
「いやー、マジで嬉しいよ。みんな来てくれるなんて。一人で別収録だったら不安だなって思ってたんだよな。時差もあるし」
「まあ、俺らもロンドン来たかったんだよな。バンドのこともあるけど、純粋に楽しみに来ちゃってるところもある」
「こういうスケジュールになったのも、にしやんのおかげかな。感謝しないと」
メンバーが次々と声をかける。なんだかんだお互いを思いやれる仲の良いバンドである。
バンド活動は週末。平日は、にしやんはイーストボーンで学校、メンバーはイギリス観光という日程である。メンバーにとっては物凄く豪華な日程だ。
「まあ、俺はホテルで一日中寝てるっていう予定も組んでるけど」
ナガちゃんらしいスケジュールだ。
「そんじゃ、今日はこれからミーティングをしよう。これが最終の打ち合わせになると思うからしっかりね。明日は収録とリハーサルがあるから。ちょっとバタバタするけどいつも通り落ち着いてやりましょう」
マエちゃんが仕切り始めて、メンバーは気持ちを切り替えた。
タイムスケジュールやセットリストの確認。パフォーマンスのスタイルなど細かく話し合った。
それぞれ自分の意見を言い合って作り上げていく。ライブ中の空気感も好きだが、打ち合わせの時間も好きだ。何かを最初から作り上げていく作業はいつでも楽しい。
「オッケー。すげー楽しくなりそう。よし! こういうコンセプトで今回はやっていこう。新年度とか新学期とかのこの時期にぴったりじゃないかな。イメージ出来た。じゃあ飲みに行くか?」
「シゲさん、そればっかり! 明日もあるし、軽くにしましょう。近くのパブで一杯だけ飲むなら付き合います」
「俺、部屋で缶ビール飲むつもりだったんだけど?」
「じゃあマツ先生の部屋で乾杯してすぐ解散しようか。コンビニ行こう」
「何で俺の部屋なんだよ。乾杯したら各部屋に戻ってくれよ」
「なんか学生時代の合宿を思い出すなあ。一つの部屋に集まって飲んで、最後は雑魚寝するっていうやつ」
「だから俺の部屋はやめてくれよ。乾杯したらすぐ解散な」
学年や学部はそれぞれ違うが、5人中3人が日東大学出身というのもあるのか、ノリが良いメンバーたちは集まるとまるで男子学生に戻ったかのようになる。今のように、旅先になると余計にそうだ。
職場で出会った5人がバンドを組み、しかもプロとして活動出来ていること自体が奇跡だ。
その奇跡がいつまで続くかはわからないが、とにかく今を楽しんでいこう。口には出さないが、メンバーそれぞれの心の中に刻まれている思いである。




