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Marginal Man  作者: 志藤天音
33/105

何故かマージナルマン(2/2)

〜〜〜


 翌日からは各自ホストファミリーの家でホームステイとなる。イギリス南西部のイーストボーンという町に滞在する。平日はスクールに通い、土日はそれぞれ思い思いに過ごす。

 にしやんや、ツアコンの直美さんもホームステイすることになっている。


 ただ、にしやんは別の仕事があるために、週末はロンドンで過ごすということをホストファミリーに伝えている。もちろん生徒たちには内緒だ。

 引率者を受け入れるファミリーだから、こういうことにも対応してくれる。


 つまり、週末はバンド活動をするということだ。

 他のメンバーとはリモートで打ち合わせをする予定だった。


 ところが、にしやんが打ち合わせの為に訪れたロンドンのスタジオに入ると……


 「よお、にしやん。俺たちも来ちゃったぜ」

 なんと、何故かマージナルマンのメンバーが全員集合していた。

 ちょうど春休みに入ったので、合流することになったのだ。にしやんには秘密にしていた。


 「おー、すげーサプライズ! 全然知らなかった。言ってくれよ!」

 驚きながらも喜びを隠しきれないにしやん。

 「これから俺らはロンドンにいるから。ホームステイが終わってからフランスとイタリアに行くんだろ? その頃に帰国する予定だから」

 「ロンドンでライブを4公演。その中に配信ライブが1本含まれてる。それとは別に音楽番組に中継で出演することになってる。結構ハードスケジュールだぞ。体調管理しっかりな」

 マツ先生とシゲさんが、今後の予定を説明する。


 「いやー、マジで嬉しいよ。みんな来てくれるなんて。一人で別収録だったら不安だなって思ってたんだよな。時差もあるし」

 「まあ、俺らもロンドン来たかったんだよな。バンドのこともあるけど、純粋に楽しみに来ちゃってるところもある」

 「こういうスケジュールになったのも、にしやんのおかげかな。感謝しないと」

 メンバーが次々と声をかける。なんだかんだお互いを思いやれる仲の良いバンドである。


 バンド活動は週末。平日は、にしやんはイーストボーンで学校、メンバーはイギリス観光という日程である。メンバーにとっては物凄く豪華な日程だ。

 「まあ、俺はホテルで一日中寝てるっていう予定も組んでるけど」

 ナガちゃんらしいスケジュールだ。


 「そんじゃ、今日はこれからミーティングをしよう。これが最終の打ち合わせになると思うからしっかりね。明日は収録とリハーサルがあるから。ちょっとバタバタするけどいつも通り落ち着いてやりましょう」

 マエちゃんが仕切り始めて、メンバーは気持ちを切り替えた。

 

 タイムスケジュールやセットリストの確認。パフォーマンスのスタイルなど細かく話し合った。

 それぞれ自分の意見を言い合って作り上げていく。ライブ中の空気感も好きだが、打ち合わせの時間も好きだ。何かを最初から作り上げていく作業はいつでも楽しい。


 「オッケー。すげー楽しくなりそう。よし! こういうコンセプトで今回はやっていこう。新年度とか新学期とかのこの時期にぴったりじゃないかな。イメージ出来た。じゃあ飲みに行くか?」

 「シゲさん、そればっかり! 明日もあるし、軽くにしましょう。近くのパブで一杯だけ飲むなら付き合います」

 「俺、部屋で缶ビール飲むつもりだったんだけど?」

 「じゃあマツ先生の部屋で乾杯してすぐ解散しようか。コンビニ行こう」

 「何で俺の部屋なんだよ。乾杯したら各部屋に戻ってくれよ」

 「なんか学生時代の合宿を思い出すなあ。一つの部屋に集まって飲んで、最後は雑魚寝するっていうやつ」

 「だから俺の部屋はやめてくれよ。乾杯したらすぐ解散な」


 学年や学部はそれぞれ違うが、5人中3人が日東大学出身というのもあるのか、ノリが良いメンバーたちは集まるとまるで男子学生に戻ったかのようになる。今のように、旅先になると余計にそうだ。

 職場で出会った5人がバンドを組み、しかもプロとして活動出来ていること自体が奇跡だ。

 その奇跡がいつまで続くかはわからないが、とにかく今を楽しんでいこう。口には出さないが、メンバーそれぞれの心の中に刻まれている思いである。

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