もしかして
「ねえ、にしやん。マージナルマンって知ってる?」
「マージナルマン? 心理学の?」
「しんりがく? 何それ」
「は?」
高校生相手でも、たまに会話が成り立たない時がある。質問を質問で返されるパターンもよくあるが、今回の会話は特に気をつけなければいけないようだ。
「バンドだよ。バンドのマージナルマン」
「もしかして、学園祭の劇のテーマソングに使ったやつ? あれは良かったよね。ピッタリだった。B組の映画にも使われてたよね」
「そうそう。そのマージナルマンがね、学校の先生だっていう噂らしいの。もしかしたらうちの学校かもしれないって。都内の女子校って言ってたから」
「都内の女子校って言ってもたくさんあるぞ。俺はよくわからないから、うちじゃないと思うよ?」
どこでそんな情報が出たんだ?にしやんは内心ドキドキしながら、平静を装ってやんわり否定した。
「学園祭の時にね、外部から男子高生が来てたじゃない? その中にトモコの彼氏もいたんだけど、体育館に似てる人がいたって言ってたみたいだよ。マエちゃんかもしれないよ。楽器出来るもんね」
「えー? それだったら俺も知ってるはずだよ? 俺たち一緒に歌ったりしてるけどさ。マージナルマンだってこと、俺に黙ってるわけないだろ?」
学園祭は生徒の友達や家族であれば、一般の人も入場可能である。毎年男子高校生も入ってくるので、問題を起こさないように警備も厳重にしているが、自分たちのバンドの正体がバレそうになるとは思ってもみなかった。
バンドはテレビに出る時には、シルエットしか映さないようにしていた。体育館もほぼ暗闇だったから、そこにいればシルエットになる。そんなに特徴的なシルエットではないと思うけど、見る人が見ればわかってしまうものなんだな、盲点だったとにしやんは感じていた。
早いとこ、この場から立ち去りたかった。今はしらばっくれてても、いつかは自分も疑われるし、否定し続けなければいけないと思ったからだ。早くメンバーに報告しなければ。そう思っていた。
「ちなみにだけど……その情報ってテレビとか雑誌に出てるの? それともSNSで拡散されてる? もしその情報が出てたら、チェックしておきたいから教えてくれない?」




