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第13話 不穏な招待状

「なんなのよ、これ〜〜!」


 王宮でのお茶会の翌朝。朝食を終え、侍女が居間リビングのテーブルに運んできた郵便物の山に、マリアヴェルは悲鳴を上げた。数えきれないくらいある色とりどりの封筒は、すべてお茶会や夜会の招待状だった。


 悪女の噂で有名なマリアヴェルの交友関係は狭く、出不精でも知られている彼女に送られてくる招待状は一日に二、三通が限度なのに。


 滅多にない光景にマリアヴェルが目を白黒させていると、


「これが原因だと思うよ」


 アルフレッドがひらひらと掲げて見せたのは、新聞だ。テーブルに広げたアルフレッドがある一面を指さす。紙面に目を落とすと『第一王子、婚約者を乗り換えか。お相手はアッシュフォード侯爵令嬢』なんて品も信憑性もない記事が書かれていた。


「殿下が君をお茶会に招待したものだから、あらぬ憶測を呼んでいるみたいだね。噂が真実なのか、君に確かめたい令嬢が多いみたいだ」

「どうして記者さんはこんなに仕事が早いのよぅ!」


 ユリウスが意図的に流したのではないかと深読みしたくなるほど、広まるのが早すぎる。


「王室のネタに世間はすぐ飛びつくから、お金になるんだろうね。熱心な記者が多いのは仕方ないよ」


 尤もらしくそう言った後、アルフレッドが可笑しそうに笑い出す。狼狽えるマリアヴェルの反応を面白がっているに違いない。


「笑い事じゃないわ、お兄様! 殿下との婚約なんてデタラメなんだものっ」

「でも、殿下にプロポーズされたんだろう?」

「あんなの本気じゃないわ……って、どうして知ってるの?」

「殿下に聞いたからね。ついでに、君への用件も」


 殿下の用件。マリアヴェルはハッとする。


「殿下との噂がエレナーデ様の耳に入ってしまったら、厄介だわ」

「……もう遅いかもしれないね」


 アルフレッドが招待状の中から一通の封筒を抜き取った。くるりと封筒を裏返し、


「ほら、クロムウェル公爵家からだよ」


 花柄の封筒に押されている封蝋は、薔薇と月を組み合わせたデザイン。クロムウェル公爵家の家紋で間違いなかった。


 差し出された封筒を開くと、収まっていたのは一枚のカード。


「よろしければ本日の午後、二人きりでお茶を楽しみませんか……二人きり……」


 嫌な予感しかしなかった。何しろ相手はユリウスに好意を持つ令嬢に嫌がらせをしてきた嫉妬姫。


「気が重そうだね」

「二人だけでお茶なんて、何を言われるかわからないもの……」


 憂鬱さからため息をこぼすと、アルフレッドが首を捻った。


「招待を受けるかどうかはマリィの自由だけれど、殿下の命を果たすならちょうどいい機会ではあるんじゃないかい?」


 兄の助言に、マリアヴェルは考え込む。


 どうやって破談に持ち込むか。名案はちっとも思い浮かばないが、ユリウスとの婚約の噂を利用するのは一つの手かもしれない。


 エレナーデよりもマリアヴェルがユリウスの婚約者として相応しい。そう思わせることができれば、身を引いてくれる見込みはある。


 問題なのは――。


「縁談の噂は利用できても、悪女な侯爵令嬢も十分外聞がよろしくないのよね……」


 ただでさえ家柄で敵わないのに。世間からの評判は、マリアヴェルも嫉妬姫に負けていない。


「大丈夫だよ。見る目があれば結婚相手としてマリィは申し分ないから」

「それなら、どうして見る目があるはずのお兄様はわたしをお嫁さんにしてくれないの?」

「僕の場合はまず義兄あにとしての欲目が入るからね」

「……もう。屁理屈ばっかりだわ」


 揚げ足を取ろうと舌戦を挑んでも、アルフレッドに勝てた試しがない。すぐにマリアヴェルがむくれることになる。 


 拗ねたマリアヴェルの頭を撫でていたアルフレッドが、時計に目をやった。出仕の時刻が迫っているのだ。


「招待を受けるなら、帰りはあまり遅くならないようにね」


 いくつになっても心配性なアルフレッドに苦笑しつつ、マリアヴェルはいってらっしゃい、と義兄を送り出す。それから再び招待状に視線を落として――よし、と気合を入れた。

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