王子、なぜ服を着てるんですか?
私はとある城の門番だ。
毎日、城の門の出入りをチェックしている。
そんな私が勤めているお城にはよく変態が出没する。
城は重要な施設だ。
国の中で一番厳重に警備されていなければならない。
しかも、国の民を導く者達がいるから、厳格な場所でなければならない。
変態が出没していい場所ではないのだ。
それなのに。
なのになぜ、変態が出没してしまうのか?
人体の要所を葉っぱ一枚で隠した変態が。
常識と頭の中身を疑う様な変態が。
「変態があばれてるぞ!」
「またあの変態か!」
「くそっ、変態が逃げた!」
「追いかけろ!」
それは、その変態が城の主だからだ。
「王子! 今までも散々言ってきていますが、服を着てください!」
私は中庭を闊歩する変態、ではなく王子に叫んだ。
私の上司の上司の、そのまた上司的な存在である、偉いはずの王子に。
すると王子は、「嫌だね!」と子供みたいに駄々をこねる。
表情も子供みたいに「嫌だね!」となっていた。
「だって、服を着てると動きにくいし、窮屈だし!」
そして、どこの野生児だと思うようなセリフを放ってくる。
王子が動きやすさを追求してどうする。
まず見た目を重視してほしい。
すばしこく動けなくてもいいの。
守られる人間なんだから。
確かに格式ばった王子の服は、少し窮屈そうに見える。
装飾品とか、激しく動いたらとれてしまいそうだし。
白ベースだから、汚れとかもついたらなかなかとれなさそう。
王子の服のその窮屈さは、いずれ何とかしなければと思うが。
その抗議活動として服を脱ぐ人間がどこにいるのだろうか。
しかも、人目のある場所で。
そう言うのは言葉で言ってほしい。
変態の王子は、目の前で反復横跳びをしはじめた。
現役の警備兵もびっくりの身のこなしだった。
これいじょうないくらい変態だ。
変態は、行動も変態的だった。
「どうだ! すばやいだろう!? 服を着てしまうとこの素早さが失われてしまうんだ。惜しいとは思わないのか」
「思いません、貴方は王子なのですから、大人しく私達に守られていればいいのです」
意味が分からない。
もっと他にするべき事があるだろうし、恰好もつかないし、外聞も大変だ。
すると身動きを停止させた王子が仁王立ちでポーズをきめてきた。
「私は常に、守られるより守る立場でありたい!! ――それが、王というものだ!!」
セリフは恰好よかった。
勢いもすばらしかった。
顔がイケメンだから、そこまでみたら百点だ。
しかし、全裸という絵面が全てを台無しにしていた。
マイナス九十九点。
「守ってもらった試しなどないのですが? というより、王子が服を着ない事によって私達の仕事が増えるんです。職務妨害ですよ」
王子は「むぅ」とうなって、分からず屋を見るような目線を向けてくる。
えっ、なんでわかんないの?
みたいな目つきだ。
その視線にイラっとした。
私の額には見事な青筋ができている事だろう。
鏡を見なくても分かる。
私は顔に般若のお面を装備した。
「王子! いい加減にしないと怒りますよ!」
「もう怒ってるじゃないか、いたいいたいいたい。そんなデリケートな所、力いっぱいひっぱられたら、もげちゃう!!」
私は王子の耳を引っ張って、せめて建物の中に格納しようと試みる。
この、人の目を汚してやまない物を一刻も早く、日の当たらない場所においやらなければ。
目を離すと知らない間に、全裸のままで町を歩いているから困る。
その日私は、門番として王子の脱走を阻止する事に成功した。
けれど、そんな変態的な全裸の王子が、なぜか服を着る出来事が起こった。
一体どんな天変地異が始まると言うのだろうか。
その日、私は戦慄した。
「王子、なぜ服を着てるんですか? とうとうおかしくなったんですか」
人間としては正しいけれど、王子としてはおかしい気がする。
私は、門の所にやってきた王子にそう声をかけた。
その王子は、どこからどうみても完璧な王子だった。
変態ではない。
葉っぱもない。
服も着ているし、変態的な動きの方もしていない。
王子は普通だった。
そして行動もまともだった。
使用人や護衛などもちゃんと周りにくっつけている。
普通でいるだけで皆がありがたがっている。
「王子がおとなしい」
「なんてすばらしいんだ」
「どうかずっとこのままでいてくれ!」
私はあまりにも恐ろしい、ではなくありえない光景をまえにしてのけぞった。
すると王子はいじめた顔で愚痴りはじめる。
「だってだってしょうがないんだ。おばあさまが返ってくるっていうから、きちんとした格好で出迎えないといけないんだ」
とか言い続けている。
ああ、と私はその言葉を聞いて納得した。
王子のおばあさまは、凄腕の魔法使いだ。
世界で数えるくらいしか存在しない大魔法使い。
そんな地位にいるから、各地で色々とひっぱりだこで、あまり城にはいなかった。
だから、この城に帰ってくるのはかなり久々だ。
しかし、そのおばあさま、とても厳しい。
礼儀作法とかは、かなり。
何か一つでも間違えると、電撃をくらわしてくる。
王子は幼い頃から、おばあさまにしごかれてきたから。
トラウマがあるのだろう。
王子はそのおばあさまの事を苦手に思っている。
だから、帰っている時だけはちゃんとしているのだった。
私はため息をついて、納得した。
それはそれとして。
「でもいいんですか?」
王子は忘れているようだが、他にも問題があった。
「なんだい?」
王子は首をかしげる。
王子には、友達がいた。
変態友達と言う奴だ。
いけない王子が悪の道にひきずりこんだその人は、変態になってしまった。
全裸とまでにはいかないが、半裸でいる事に喜びを感じてしまう体質になってしまったのだ。
その友人も、今日来る。
この城に遊びに来る。
おばあさまが友人の事を知ったらどう思うだろうか。
王子が友達を悪の道に引きずり込んだ事を知ったら。
「……」
王子は無言でさあっと、顔色を青くした。
そして、数秒後再起動。
「たのもーう。おい、ほぼ全裸! 変態王子! あそびにきてやったぞー。あっ、ついさっきそこで、お前のおばあさんと出会ったんだけどな。面白い人だな!」
王子は、友人から死刑宣告が下された事で、逃走の態勢に入った。
王子のおばあさまは礼儀作法に厳しい。
けれど、自分の考えを他人に押し付ける事はないので、友人に何かを言う事はないだろう。
だがその分、王子への風当たりがつよくなる。
王子は、交友関係が広いので、このような悲劇がたまに出現してしまったりするのだった。
門の外から、王子の友人の声。
のんきな声が響いている。
「なんだ。はやくあけてくれよー。そこにいるんだろー。気配がするぞー」
そして、おばあさまの「ふふ、かえったらきっちり教育しなければいけないようですね」そんなドエス色の声までしてくる。
声の雰囲気がやばかった。
静かに怒ってる感じだった。
神のいかずち発射五秒前という感じだった。
「ぴ」
王子の感情が決壊した。
「ぴぎゃああああああ」
悲鳴が遠ざかっていく。
それはなぜか。
悲鳴を上げている本人が遠くへ走っていくからだ。
「い、いやだぁぁぁぁ!!」
その瞬間、全裸の王子は逃げ出していた。
肉食動物に襲われた草食動物のような足の速さだった。
「王子が逃げたぞ!」
「追え! 逃がせば俺達が怒こられるぞ!」
「囲ってしまえ!」
私は再度、はあっとため息をつきながら外にいる人達を入れるために開門操作していった。
どうしても捕獲にてこずるようなら、後で私が追い回そう。
こんな門番な私でも、よく遊びに来るくらいには、一応王子のお気に入りらしいし。