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 みらいは自宅に帰った。

 鞄の中には、樹子に録音してもらった『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』と『イエロー・マジック・オーケストラ』のカセットテープが入っていた。すぐに聴こうと思っていた。

「みらい、高校はどうだった?」と母が訊ねてきた。

「うん。すごく楽しかったよ。もう友だちができた。遊んでもらったの」

 母は冷めた目でみらいを見つめた。

「遊んだですって?」

「うん。あの子と親友になりたい」

「高校は勉強をするところでしょう? 遊んでちゃだめよ」

「友だちに言われたんだ。自主独立の気概を持ちなさいって。わたし、自立したい」

 いきなり頬を殴られて、「あうっ!」とみらいは叫んだ。母の拳骨だった。

「子どもは親の言うことを聞いていればいいのよ!」

「樹子が、あなたの人生なのよ、親の人生じゃないって言ってくれたんだ」

 今度は腹を殴られた。みらいは「ぐえっ」とうめいて、身体をくの字に折り曲げた。

「その子とは二度と話しちゃだめよ! 不良だわ!」

「樹子は不良じゃない。素敵な子だよ。たぶん頭もいい。成績もいいよ」

「考え方が完全にまちがっているわ! 子は親のものなのよ。長く生きてきて、子どものことを一番に想っている母親の言葉に絶対服従して生きていけばいいのよ」

「樹子は逃げなさいと言ってくれた」

「何を言っているの? 親元から逃げて、子どもが生きていけるはずがないでしょう?」

 みらいはまっすぐに母の目を見つめた。

 母は少したじろいだ。

「反抗するのもいいわね、とも言っていたわ」

 頬に平手打ちが飛んできた。右、左と二連発だ。

 みらいは母を睨んだ。にぃ、と笑った。

「これは虐待なんだね」

「虐待じゃないわ。体罰よ!」

「わたしの精神を壊す行為でしかない」

「みらいの精神を直す行為よ!」

「お母さんは子どもに対する傷害を躊躇なく行う犯罪者だったんだね。今日それを教えてもらって、腑に落ちたよ」

「みらい!」

「わたしはこれを聴いてくる。大音量で。邪魔しないでね」

 みらいは鞄からカセットテープを取り出した。

 母はそれを奪おうとしたが、みらいはさっとかわした。

「また燃やすつもりなの?」

「そんなこと、しないわよ……」

「お母さんはわたしの大切な小説ノートを燃やした。一生忘れない。生涯恨むから」

「みらい……」

「このカセットテープを壊されたら、家出するから。警察署に行って、お母さんに暴行されていますって言うのもいいかな。ふふっ、気持ちいい。本音を言うのって、すごく気持ちいい!」

「みらい、あなた、頭がおかしくなってしまったの……?」

「おかしいのはお母さんだよ。わたしはようやくそれを知った。これからは自主独立の気概を持って生きるから。わたしの人生の邪魔をしないでね、お母さん」

 母は宙を見つめて、黙り込んだ。

 みらいは自分の部屋に行き、『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』をラジオカセットにセットした。ボリュームを最大にして、彼女はそれを聴いた。『ライディーン』が始まったとき、みらいは我知らず踊っていた。

 小説を書きたい。

 そして、音楽を始めたい、と痛切に思った。

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