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第一話「贋茶碗」  作者: 和泉和佐
6/16

贋茶碗6

再掲載です。今一つ使い方がわかっていません。

ご迷惑をお掛けします(>_<)



*元号の漢字は意図的です






 ――――― 6 ―――――


 青く澄み切った空の下、スッポンの寅造は江戸の町を勢いよく闊歩(かっぽ)していた。

 寅造は御上(おかみ)から十手を預かる岡っ引きだが、同時に芝口から愛宕下辺りを縄張りとする香具師(やし)(ガマの油売りなどに代表される街頭で見世物や芸をして人を集めて物を売る商売人などのこと)の元締めだ。

 ちなみに『スッポンの…』という通り名は寅造が大の雷嫌いだというところから来ていて、能力やその人と(なり)には一切関係がない。

 もともとは寅造の父親が増上寺の門前で小商いをしていたのが始まりで、商いが軌道に乗り余所にも何軒かの店を構えるようになる頃にはその人柄を慕って茶店や香具師(やし)同士の小さなトラブルの解決やら御上との揉め事の相談やら彼らの取りまとめを頼まれるようになった。寅造が長ずる頃には江戸でそれと知られる香具師の元締めとなっていたそうだ。その跡目を継いだのが寅造で、そのためまだ若い寅造だが芝口から愛宕下辺りでは大層に顔が利くのである。

 そもそも岡っ引きというのは実のところ幕府が飲み込まなければならない『清』と『濁』の、どちらかといえば『濁』に近い側に位置する存在だ。寅造のような香具師の元締めなどまだマシな方で、土地のヤクザが十手を預かっている場所だって珍しくない。

 そうは言っても、スッポンの寅造は正義の人であった。

 寅造はその家庭環境から幼い頃より宮地芝居などを見て育った無類の芝居好きだ。中でも好きなのは()()()()を使ったいわゆる剣劇である。イケメン俳優による大立ち回りがメインの芝居だが、子供だった寅造はその勧善懲悪で弱きを助け強きを挫くといった胸のすくような話に強く魅了された。悪徳役人に苦しめられる香具師仲間の姿を幼い頃から見てきたからかもしれないが、とにかくスカッとする話が大好きなのである。

 雪之丞や助三らの深山一座ではその寅造の大好きな仇討ちものがちょくちょく掛けられていて、ちょくちょく見に行っていたりする。


 だが―――


 それとは別にして、あの一座はなにやらキナ臭い。これといった明確な理由があるわけではないのだが、岡っ引きの勘が告げている。ちなみに、御上から十手を頂いたのはつい先日のことではあるが……

 第一に深山一座の剣劇は迫力がありすぎる。たまたま一緒に観劇していた同心の柚木平九郎(寅造が世話を受けている同心)が、『彼らは実際に剣術を使うのでは?』と勘ぐったくらいだ。彼らの立ち回りは芝居の殺陣というよりも本物の剣術の型に見えるらしいのだ。

 加えて、上総屋のニセの娘婿の一件がある。

 上総屋の昔の恩人の息子が現れたやら、その男が娘のおかよの婿として住み込み始めたやら、その内に実はそいつがニセモノで本物の婿が現れたという話になり、実の実はそれもニセモノだったんだとかなんだとか―――もうぐっちゃぐちゃのごっちゃごちゃだったとか―――

 とにかく問題はその騒動の間に、役者の後援者(パトロン)などしたこともない無粋者で通った上総屋がやけに足繁く雪之丞の下へ通ったり、怪我で降板中の立役者・助三を日本橋辺りで見かけたりだとか―――芝・高輪を縄張りとしさらには深山一座の大の贔屓である寅造だからこその疑惑だった。

 といっても寅造とて日がな一日雪之丞ばかりを追いかけているわけではない。

 今は、知り合いの口入れ屋(民間の職業斡旋所、現代でいうところの派遣会社?的な)の暖簾をくぐったところである。この店は、いつもの寅造の縄張りからは遠く、川の手と呼ばれるあたりに位置している。

 寅造が初めての大手柄で捕まえた盗賊の引き込み役がこの口入れ屋を経由して雇われたらしいとのことで事情聴取にきたのだ。

「邪魔ァするぜ」

 暖簾をくぐった途端に、寅造の耳に若い男の声が飛び込んでくる。



「へえ~、そいつぁひでえ話だなぁ。ネエさん、よく我慢しなすったねえ」


 暖簾をくぐってすぐに聞こえたその声に寅造は、

「って…! てめえ! 深山の文治じゃねえかッッ、こんなところでなにしてやがる!!」

 思わず脊髄反射で噛みついていた…






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