贋茶碗1
再掲載です。今一つ使い方がわかっていません。
ご迷惑をお掛けします(>_<)
*元号の漢字は意図的です
雪之丞は女形でございます
女形といえばおなごのニセモノ
贋物屋に御用とあれば
この雪之丞が承りましょう!
第一話「贋茶碗」
――――― 1 ―――――
元緑六年、江戸。
とある商家の蔵の中で、短い悲鳴が起こった。
それは短くはあるが深刻であり、切実な、聞きようによっては悲痛な響きさえ伴っていた。
「―――」
しばらくの静寂の後、
ガタ、ガタガタ
土蔵の内戸が引き開けられ、中年の男が姿を見せた。男は外へ出て、ガタガタと再び重い内戸を閉め、ギィィィ~と観音開きになった外扉を閉めた上に、ガシャンとかんぬきを下ろし、さらにはカチャリと南京錠を掛けた。
それらの作業をほとんど無意識のうちにやってのけた男は、この大きな商家の主人であった。
「………」
「…おとっつぁん、おとっつぁんったら!」
「?!」
不意の呼び声に男は跳びあがらんばかりに驚いて振り向いた。
「どうしたの? さっきから呼んでるのに」
娘が訝しげに問うが、
「ああ…いや、その、何の用だね」
男は歯切れ悪く答え、曖昧に頷いて聞き返す。
「上総屋の小父さまがいらしたのよ」
「上総屋さんが?」
「?…ええ…だって、お約束がおありになるんでしょう? お珍しいことに今日は小父さま、大層にご機嫌がよろしくてよ」
と娘が付け加えたのは、上総屋の主人は家庭内のいざこざに悩まされ、数日来臥せっていると聞き及んでいたからである。
「…ああ、そうか。そうかい…今、行くよ」
父親は変わらず気のない様子で答えた。
「おとっつぁん? どうかし…あらっ、お顔の色が真っ青よ、おとっつぁん!」
娘の驚く声にも男は、
「何でもない。何でもありゃしないよ」
強情に言い張った。
母親が亡くなって以来、父親の《小さな妻女》として働いてきた娘は中々引き下がらなかったが、
「本当に何でもありゃしないんだ。大丈夫…おいと、おまえには何の関わりもありゃしないんだ」
男は三度そう繰り返してから、表の方へフラフラと歩き去った。